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森元首相の三島返還論とはどういう意味だ?


森元首相が安倍総理大臣の特使として二月にロシアを訪問し、北方領土問題についてプーチン大統領と会談することになった。そのことをとりあげた先日のテレビ番組の中で、交渉に臨む基本姿勢を聞かれた元首相は、三島返還で決着をつけたい旨の発言をしたと伝わった。驚いた筆者は、発言の真意を確かめようとしてメディアソースに当たって見たが、どうも要領をえない。あるメディアは、択捉島はあきらめて、国後、歯舞、色丹の三島だけの返還で幕を引くという意味だと伝えているのに対して、他のメディアは、当面この三島の先行返還を進め、択捉島については継続交渉するという意味だと伝えている。肝心なことが、我々一般国民に正確に伝わっていないのだ。

ところが今日(1月11日)の朝日の朝刊には、国後と択捉との間に国境線を引き、三島返還で最終決着をはかりたいというのが、森氏の本意だとあった。これは、四島返還という日本政府の従来の立場とは明らかにずれている。こんな大事なことなのに、政府が森氏と深く意見交換したという痕跡はみられない。菅官房長官が、四島返還が日本政府の基本立場だとして、森氏の発言に対して、それを否定するような言い方をしていたのが、その証拠だ。だからといって、森氏は自分の発言を撤回しないままに、ロシアにいくことになりそうだから、このままだと、三島返還と言う線で、話を進めてこないとも限らない。

一体森氏はどういうつもりで、三島返還などということを云いだしたのか。森氏の態度には二重の意味合いで納得できないものがある。ひとつは、日本の領土である択捉島をなぜロシア領として認めようとするのかと言う点、もう一つは、これから交渉に臨もうとするにあたって、事前に手の内をさらけだしているという点、この二つだ。

第一の点については、森氏はプーチンの言葉尻をとらえて、相手が「引き分け」と言っているんだから、日本側も「引き分け」の方針で臨んだらうまくいくのではないか、引き分けとは双方が譲り会うということだから、日本も譲り合いの精神を見せなければならない。択捉の放棄はその譲り合いの精神を形で示すものだ、といいたいのか。まあ、理屈のようだが、これは歴史を無視した妄言であるといわねばならない。

北方領土問題とはそもそもどういう歴史的いきさつを背景にしているのか、これがきちんと理解できていれば、「引き分け」のために領土の一部を放棄しても良いという理屈は生まれてこない。ソ連による北方領土の占領は国際法を無視した不法占領、つまり侵略行為なのだ。日本は、国際法上ソ連に対して何らの落ち度がないにかかわらず、ソ連が一方的に日本の領土を侵略したというのが歴史の真実なのだから、日本は侵略によって失われた領土を回復する当然の権利がある。それを放棄するというのはどういうつもりなのか。

第二の点については、あきれかえるとしか言いようがない。そもそも森氏はどういう立場でプーチンとあうのか。表向きは安倍総理大臣の特使と言うことになっているが、それは特命全権大使と言うことなのか。もし全権大使と言うことであれば、森氏の肩には日本国の運命が託されている、したがって森氏は慎重には慎重でなければならぬ。それなのに、交渉が始まる前から手の内をさらけだし、さあ、こちらにはいままでの主張を退けて、領土の一部を放棄する用意がありますよ、というのは、全く以て、餓鬼大将からも馬鹿にされるようなやり方だ。

領土を放棄するおつもりがあるのなら、もう少し気前良くしてくださいな、択捉だけなどといわずに、国後も放棄するといいなさいな。プーチンだってこんなことを云いたくなろうというものだ。




  
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