日本語と日本文化


蛇、僧ノ昼寝ノマラヲ見テ呑ミ、婬ヲ受ケテ死ヌル語 今昔物語集


今は昔、若い僧があって、位の高い僧侶のもとに仕えておった。妻子も持っていた。その僧が主人のお供をして三井寺にいった際、夏の昼下がりのこととて、眠気に襲われ、広い部屋の一角で、長押を枕にして寝た。

周りにうるさい人もなく、よく寝入っていると、美しい女がやってきて自分の隣に横たわり、セックスをする夢を見た。驚いて夢から覚めると、傍らに五尺ばかりの蛇が横たわっている。ガッパと起きてよく見れば、蛇は口を開いて死んでいる。不思議に思って自分のペニスを見ると、セックスをした後のように、濡れているではないか。

さては寝ている間に美しい女とセックスをしたと思ったのは、実はこの蛇にペニスをくわえられていたのだった、こう思うと恐ろしくなった。蛇の開いた口からは、自分の精液がもれ出ている。

「自分が寝ている間に、ペニスが立ってきたのを、蛇が見て興奮し、くわえたのだ。それを夢の中では、女とセックスしているように感じたのだ。この蛇は自分の精液に当てられて死んだのだろう」こう思うと、怪しくも恐ろしい気持ちになった。

僧はその場を離れ、人目に立たぬところで自分のペニスを洗うと、このことを誰かに話そうかとも思ったが、つまらぬことをしゃべって、人から馬鹿にされるのが面白くないので、誰にも話さないでいたが、ついに我慢ができなくなって、親しくしていた僧に話したのだった。聞いた僧もたいそうびっくりしたということだ。

こんなわけだから、人気のないところで昼寝などするものではない。

「畜生は人の精液を浴びると、その威力に耐えずに死ぬ」というが、本当にそのとおりだ。


この話は、蛇が男の勃起したペニスに興奮して、銜え込むという話だ。それを男の方は女とセックスしているかのように感じて、その感じを夢に見る。ところが、男の精液を呑み込んだヘビは、毒にあたったように死んでしまうという、訳の分からぬ話だ。


今昔、若キ僧ノ有ケルガ、止事無キ僧ノ許ニ宮仕シケル有ケリ。妻子ナド具シタル僧也ケリ。其レガ、主ノ共ニ三井寺ニ行タリケルニ、夏比昼間ニ眠タカリケレバ、広キ房ニテ有ケレバ、人離タル所ニ寄テ、長押ヲ枕ニシテ寝ニケリ。

吉ク寝入ニケルニ、驚カス人モ無カリケレバ、久ク寝タリケル夢ニ、「美キ女ノ若キガ傍ニ来タルト臥シテ、吉々ク婚テ婬ヲ行ジツ」ト見テ、急ト驚キ覚タルニ、傍ヲ見レバ、五尺許ノ蛇有リ。愕テカサト起テ見レバ、蛇死テ口ヲ開テ有リ。奇異ク恐シクテ、我ガ前ヲ見レバ、婬ヲ行ジテ湿タリ。

「然ハ、我レハ寝タリツルニ美キ女ト婚ト見ツルハ、此ノ蛇ト婚ケルカ」ト思フニ、物モ思エズ恐シクテ、蛇ノ開タル口ヲ見レバ、婬、口ニ有テ吐出シタリ。

此レヲ見ルニ、「早ウ、我ガ吉寝□ニケル、[マラ]ノ発タリケルヲ、蛇ノ見テ寄テ呑ケルガ、女ヲ嫁トハ思エケル也ケリ。然テ、婬ヲ □□時□、蛇□□不□テ死ニケル也ケリ」ト心得ルニ、奇異ク恐シクテ、其ヲ去テ、隠ニテ[マラ]ヲ吉々ク洗テ、「此ノ事人ニヤ語ラマシ」ト思ケレドモ、「由無キ事人ニ語テ聞エナバ、「蛇嫁タリケル僧也」トモゾ云ハルル」ト思ケレバ、語ラザリケルニ、尚此ノ事ノ奇異ク思エケレバ、遂ニ吉ク親カリケル僧ニ語ケレバ、聞ク僧モ極ジク恐ケリ。

然レバ、人離レタラム所ニテ、独リ昼寝ハ為ベカラズ。然レドモ此ノ僧、其ノ後別ノ事無カリケリ。「畜生ハ人ノ婬ヲ受ケツレバ、否堪ヘデ必ズ死ヌ」ト云フハ実也ケリ。僧モ憶病ニ、暫ハ病付タル様ニテゾ有ケル。此ノ事ハ、其ノ語リ聞セケル僧ノ語ケルヲ聞タル者ノ、此ク語リ伝ヘタルトヤ。




  
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