日本語と日本文化


瓜子姫と天邪鬼:日本の昔話


昔話の瓜子姫は残酷な話である。天邪鬼という鬼が瓜子姫をだまして食ってしまい、その皮をかぶって姫になりすますが、最後には正体を見破られるというのが大方の荒筋である。中には、柳田国男が紹介している出雲の話のように、瓜子姫は殺されずに裏庭の柿の木に裸で吊るされるというパターンもあるが、鬼に食われてしまうというものが圧倒的に多く、聴耳草紙の話もそのようになっている。

話の内容は大方次のようなものである。

婆さんが川で洗濯をしていると川上から瓜が流れてきた。それを拾ってきて割ってみると中から可愛い女の子が生まれてきた。瓜から生まれたので瓜子姫と名付け大事に育てているうちに大きくなり、機織をしてお爺さんお婆さんを助けるようになった。

或る時、お爺さんとお婆さんが出かけて留守の間に、瓜子姫はいつもどおりに機を織っていたところ、天邪鬼が現れ、瓜子姫をだまして家の中に入ってきた。そして包丁と俎板を持ってこさせると、瓜子姫の皮をはいで、肉を切り刻んで食ってしまった。痕には指と血だけを残し、自分は皮をかぶって瓜子姫になりすまし、お爺さんたちが帰ってくると、指は芋、血は酒だと偽って食わせてしまうのである。

そのうち瓜子姫を嫁にしたいという長者が現れる。瓜子姫に化けた天邪鬼が馬に乗ってゆくと、烏が「瓜子姫の乗り物に天邪鬼が乗った」と鳴く。長者の家に着いた天邪鬼が顔を洗うと化けの皮がはがれ、もとの天邪鬼になる。そして山の中に逃げていく、というものである。

指と血を残すという部分は、人を食うのがあまりにも残酷なので、話の信憑性を持たせるためあえて添えられたのであろう。それにしても、外にあまり例を見ない残酷さである。このような話が子ども相手に語られたとは、俄かに信じられないほどだ。

この話に出てくる天邪鬼は鬼の一種であるが、古来意地悪であるとか、人の真似をして困らせるといったイメージをもたれてきた。もしかしたら山彦の擬人化だったのかもしれない。山彦も時に山の神に擬せられることがあるし、そこから山の神の化身たる鬼に転化するのもありえたことだ。

天邪鬼が瓜子姫の皮をはいで瓜子姫に化けるというテーマも、山彦と同じく人の真似をするということを表しているのではないか。

天邪鬼のルーツについては、外にさまざまな説がある。その一つに天孫降臨神話に出てくる話がある。天孫降臨に先立って高天原から遣わされた天若日子は、芦原中国に懐柔されていつまでも復命しなかった。そこで建御雷神が派遣されることとなるのであるが、天若日子のほうは、雉に向かって放った矢が舞い戻ってきて、それにあたって死んでしまうのである。そこで、任務を怠って寝返りをした報いから、後に天邪鬼となって四天王に踏まれる運命を甘受するようになったとの伝説が生まれた。

天若日子ではなく、天探女が天邪鬼になったのだとする説もある。天探女はその名のとおり高天原から使わされたスパイであるが、これが天若日子側に寝返って二重スパイになり、その情報によって、天の死者である雉が殺される。こんなところから天探女は邪悪な女スパイとされ、やがて天邪鬼になったとする説である。

いずれにしても、天邪鬼は古代の鬼のイメージが仏教と混交して生まれたものであるようだ。それはほとんどの場合女形をとっているが、そこには山の神たる鬼が老女の形をとるという点で、山姥と同じような事情が働いたのであろう。


    


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