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華厳経を読むその六:十の無尽蔵


華厳経第十八章「十無尽蔵品」は、その前章の「十行品」とともに、第四会「夜摩天宮会」の本論をなす。「十行品」は菩薩がさとりを得るためになすべき行いを説いたものであるのに対し、この「十無尽蔵品」は、菩薩には仏になるべき素質が備わっていると説くものである。このように、菩薩に代表される衆生に本来仏となるべき素質つまり仏性がそなわっているとする思想を如来蔵思想という。衆生にも如来と全く同じ仏性が備わっていると見るのである。この「十無尽蔵品」は、その如来蔵の具体的な内容を説く。ここではそれを単に「蔵」と呼び、それぞれの蔵が無尽であることを強調している。

説者は前章と同じく功徳林菩薩である。功徳林菩薩は、ボサツには十種の蔵があるという。信蔵、戒蔵、慚蔵、愧蔵、聞蔵、施蔵、慧蔵、正念蔵、持蔵、弁蔵である。

第一の信蔵とは、信じるという素質である。信じる内容は、「一切諸法は空であると信じ、形態がないと信じ、一切諸法にはこれを作る主体がないと信じ、一切諸法は不生であると」信じることである。「もしボサツがこのような信心を完成すれば、たとい、諸仏、衆生、法界、涅槃界などの、不可思議であることを聞いても、心におどろきを覚えない」

第二の戒蔵とは、戒律を持する素質である。持するべき戒律には十種ある。第一に繞益戒、第二に不受戒、第三に無着戒、第四に安住戒、第五に不諍戒、第六に不脳害戒、第七に不雑戒、第八に離邪命戒、第九に不悪戒、第十に清浄戒である。

第三の 慚蔵とは、「みずから罪をはじ、さとりを完成し、また、衆生のために真実の法を説き、衆生をして罪をはじさせ、さとりを完成させる」ようにする素質である。

第四の 愧蔵とは、慚蔵とほぼ同じ内容である。どちらも恥じることを言っているが、慚蔵は高慢に伴う恥、慚蔵は快楽をむさぼることに伴う恥である。

第五の聞蔵とは、多くの真理を聞く素質である。「この世界における真理、この世界を超越している真理、形のある世界の真理、形のない世界の真理などを知っている」ことである。

第六の施蔵とは、衆生に施し(布施)をすすんでする素質である。布施には十種ある。修習施法、最後難施法、内施法、外施法、内外施法、一切施法、過去施法、未来施法、現在施法、究竟施法である。第一の修習施法とは、どんな珍品も、御馳走も、みずから執着しないで、すべての人々にめぐみ施すことである。第二の最後難施法とは、自分の身をなげうってでも人々に施しをすることである。第三の 内施法とは、衆生を救おうと心に念じながらよろこんでわが身を施すことである。第四の外施法とは、外的な名声を捨ててもてるものをすべて衆生に施すことである。第五の内外施法とは、己の内面外面にわたってすべてのものを衆生のために施すことである。第六の一切施法とは、「貪愛の心をはなれ、すべてを捨てて、ひとのためにつくそう」と励むことである。第七の過去施法とは、過去のことにとらわれずにひたすら衆生に施しをおこなうことである。第八の未来施法とは、未来のことに執着せず、ひたすら衆生にほどこしをおこなうことである。第九の現在施法とは、今現在においてボサツの道を収めて、心にまどいがないことである。第十の究竟施法とは、自分の身に執着せず、自分のすべてをよろこんで衆生に施すことである。

第七の慧蔵とは、「かたちの世界や、こころの世界の苦悩、その苦悩の原因、その苦悩の消滅した涅槃、苦悩を消滅する方法を明らかに知っている」ことである。これは、仏教の根本的な教えである「四諦」をいうのであろう。

第八の正念蔵とは、「諸仏の真理を心に堅持し、あきらかにその旨をさとり、いまだかつてあやまったことがない」ことである。

第九の持蔵とは、「多くの経典を学び、一字一句も忘れたことがない。一生の間も忘れず、また、多くの生涯の間も忘れ」ない素質である。これは現世のみではなく、輪廻転生を通じていえることである。ということは、前世のことも忘れてはいないということである。

第十の弁蔵とは、「一切の衆生をして、如来の種をたやさないようにさせ、仏法を述べ伝えるのに、すこしも倦怠を覚えない」素質である。如来の種を絶やさないというのは、如来像として衆生が持っている仏性を絶やさないという意味である。

これらの蔵が無尽、すなわち無尽蔵だとされる。無尽とは、尽きることがないという意味、したがって絶えずに受け継がれるという意味を含んでいる。それゆえに、如来蔵とも言われるわけである。



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