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安倍晋三と統一教会問題:日本の右翼


2022年の総選挙の際に、奈良県で自陣営の候補者の応援演説をしていた安倍晋三元首相が、一民間人によって殺害される事件が起きた。この事件は個人的な怨恨による犯罪だとすぐにわかったが、その動機が世間の耳目を集めた。1970年台を中心に、いわゆる霊感商法を通じて多額の金を不当に集めたとされる統一教会がからんでいたからである。犯人の母親は統一教会の信者となって、多額の金を寄付するなどして家庭が崩壊した。そのことについて怨恨を抱いていた犯人は、安倍晋三元首相がこの団体と深いかかわりがあると思い込み、団体に対する怨恨を安倍個人に向けなおして殺害したというのである。

そんなわけで、この統一教会が俄かに脚光を浴びた。安倍晋三個人にまつわる問題を超えて、統一教会が日本の政治に深く食い入っていたことが改めて注目を集めたのである。週刊誌を中心としたメディアがこの問題を連日のように取り上げた。その論調は、統一教会が日本の政治をゆがめているのではないかというもので、自民党に対して統一教会との結びつきを断ち切れと叱咤激励するものもあった。

自民党、とりわけ右派の連中が統一教会と深いつながりをもっていることは、公然とした事実であった。それがあまり問題とされなかったのは、巨大な影響力を持つ安倍自身が統一教会と親密な関係にあるという事情のほかに、右翼とはかかわりたくないという日本のメディアの体質に根差したものだった。日本のメディアは、嶋中事件(1961)や朝日新聞襲撃事件(1987)などの教訓から、右翼とはかかわらないという姿勢を保持してきたのである。その姿勢をかなぐり捨てて、各社が競うように統一教会問題を追求する姿勢に転じた背景には何があったのか。

それはおそらく、統一教会を問題にしても、世論はもとより右翼からも反撃されないだろうという見込みがあったからだと思う。統一教会が霊感商法を通じて多くの人々に被害をおよぼしたことは、公然たる事実として語られてきたので、かれらを反社会的な団体として批判することに抵抗は少なかった。また、統一教会は韓国人文鮮明が立ち上げた団体であり、日本の右翼の主流とは離れていた。だから、それへの批判は日本の多くの右翼にとって受け容れられないものではなかった。とはいえ、いままでメディアが統一問題を避けてきたのは、その最大の庇護者である安倍晋三やかれの周辺の右翼勢力に遠慮したからであって、その安倍が死んでしまえば、メディアとしても安心して批判できるようになった、という考慮が働いていたものと思われる。

統一教会が日本に浸透するについては、安倍の祖父岸信介や笹川良一・児玉誉士夫といった右翼の大物がかかわっていた。

統一教会は、文鮮明が1954年に韓国で創立した宗教団体だが、1964年には日本に進出した。それについては、岸信介が統一教会本部を自宅敷地に置かせるなど多大な便宜を計らった。岸が韓国人の文鮮明を庇護したのは、文がかかげた反共主義を利用しようとしたからだといわれる。統一教会は、その反共主義を掲げた政治団体「国際勝共連合」を1968年に日韓両国で設立し、日本側の名誉会長として笹川良一が就任するなど、日本の右翼勢力との間に深い結びつきを築くことができた。

このように統一教会は韓国由来のものではあったが、反共というスローガンを通じて、日本の右翼勢力と深いつながりを築いていった。日本の右翼は、従来の伝統右翼からいわゆる新右翼といわれるものへと次第に変化していったが、統一教会は神道連盟などの宗教右翼や日本会議などとも親密な連携をとりつつ日本政治の右傾化に一定の役割を果たしてきた。それを最大限利用したのが安倍晋三である。安倍は、統一教会の組織力を利用して自陣営の選挙の応援をさせたり、その組織票をあてにした。組織票の力を背景に、自分自身の政治的影響力を発揮しようとしたとも考えられる。

それにしても、韓国への嫌悪が表面化している昨今、その韓国由来の統一教会が、日本の右翼と仲良くしてきたことは不思議に見える。たしかに、統一教会が日本に進出してきた時期は、日韓関係が良好になる時期と重なっており、岸のような右翼政治家が反共という点でこの団体の力を利用しようとしたことには一定の右翼なりの合理性があったといえる。しかし、日本人の対韓感情が悪化したあとでも、安倍ら右翼が引き続きつながりを求めたということには、誰もが多少の違和感を抱くのではないか。

その違和感は、安倍晋三という政治家の異様な権力の前には沈黙せざるをえなかったのであろう。だがその安倍が死んだ。もはや遠慮することはない、という見通しを得て、日本のメディアは俄然元気を取り戻したのではないか。いまのところは、安倍の仲間の自民党の政権も、統一教会との関係を清算するといっている。まだ当分は、安心して統一教会叩きを楽しむことができる。そう日本のメディアは思っているのではないか。


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