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跋扈するネット右翼:日本の右翼その十五


安倍晋三政権の登場以来、右翼が俄かに勢いづき、政治的・社会的影響力を高めた。その有力な担い手として前稿では「日本会議」をあげたが、もう一つ無視できないものがある。ネット右翼通称ネトウヨと呼ばれる連中だ。安倍政権の登場は、ちょうどインターネットの爆発的な普及時期と重なっており、ネットを根城にした右翼の動きが活発化してきたのである。かれらは、ネット空間で極右的な主張を繰り返す一方、互いに語らって路上に進出し、過激な行動をとるようになった。在特会と称される団体はもっとも過激な行動で知られている。

こうしたネット右翼の実態は、よくわかってはいないが、中間層の比較的高年齢の男性が主な担い手のようだ。日本では昔から、中間層の高齢男性が保守層及び右翼の担い手とされてきたが、そういう連中が、インターネットを活用して言論空間に躍り出てきたといえるのではないか。とりわけネット掲示板がかれらのたまり場となった。その掲示板を活用して、極右的な主張を垂れ流すわけであるが、それは、敵と味方をはっきりさせ、敵を口汚く攻撃することで、味方同士で盛り上がるという構図を指摘できる。

最近は、ネット掲示板に加えて、ツイッターはじめさまざまなSNS空間が出現しており、それらを足場にして極右的な言説を垂れ流す傾向が、日本だけではなく、世界的に広がっているようだ。

ネット右翼はさまざまな傾向の寄せ集めであり、「日本会議」のように特定の理念に基いて整然と行動しているわけではない。だが、民族主義的傾向を最低の要件として共有しているらしいことは、自分らの気に入らぬものに「反日」のレッテルを貼ることに現れている。

安倍晋三政権は、このネット右翼の影響力を意識的に利用した。安倍自身が「ネトウヨの希望の星」を自認しているらしく、安倍とネトウヨの言説には非常に似通ったところがある。安倍には「日本会議」というものもついており、そちらが主に理論面でのバックアップをしているとすれば、ネット右翼は情念面でのバックアップをしているといえる。両者が相まって、安倍の極右的な言動を後押ししているといったところだろう。

在特会に象徴される直接行動主義は、近年下火になったと指摘されている。在特会の活動が盛んだった自治体を中心にして、反ヘイト条例が整備されたこともあるが、在特会のあまりにもえげつないやり方に、普通の市民が反感を示したことも大きな理由だろう。在特会がデモをかけると、自然発生的にカウンターとよばれる動きが広まり、在特会のヘイト行為をけん制するようになった。騒ぎが大きくなることを恐れる警察が、在国会のデモを保護する動きをしめし、デモが終わるとすぐに解散するように導くので、デモに参加しても盛り上がらないといった空気が広がった。それで盛り上がりを期待してデモに参加するものが減ったという事情があるようだ。

しかし、ネット空間におけるネトウヨたちの活動はいまだ盛んである。だが、かれらはそんなに大きな勢力ではないと考えられている。人数的には大した数ではないのだが、一人当たりの活動が活発で、それが瞬く間に広がるので、巨大な勢力であるような観を呈しているのである。

昔から、極右的な言動をする勢力は一定数いたものだ。だが、その影響力は局所的なものに留まっていた。ネット空間がそうした言説に発言のチャンスを与えるようになると、あっと言う間に拡がっていくようになる。だから、ネット空間が右翼の活動を活発化させたといってよい。そうしたチャンスは左翼にもあるはずなのだが、左翼的な言説が広がらず右翼的な言説ばかりが拡がるのは、日本社会そのものが右傾化していることを反映しているのではないか。


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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2008-2022
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