三粋人経世問答
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三粋人経世問答令和三年総選挙を語る


無覚先生:四年ぶりに総選挙が行われました。今回は珍しく任期満了に伴う選挙です。前任の菅総理大臣に解散をする力がなかったためといわれています。それほど自民党は落ち目だといわれ、今回の選挙ではだいぶ苦戦するのではないかといわれていましたが、フタを開けてみると意外と健闘しましたね。むしろ野党が苦戦した。今回は野党間の共闘体制が整って、立憲を中心にして統一候補を多数擁立できたにもかかわらず、肝心の立憲は議席を減らした。これは意外な結果でしたね。

俄然坊居士:わたしは意外とは思ってませんよ。いまの政治状況をかなり忠実に反映していると思ってます。今回自民党は議席を減らしたとはいえ、それは前回ができすぎだったためで、それなりの議席を獲得したのは、やはり国民の野党への期待、なかでも立憲への期待がそれほど大きくはなかったためだと思います。立憲は、民主党時代のマイナスイメージをいまだに払拭できていないばかりか、今回は共産党と大々的に組むことで、穏健な支持者層の離反を生んだ。それが敗因じゃないですか。

無覚先生:念のために、選挙結果を整理すると、自民党は単独で絶対多数を獲得し、公明党との連立で盤石な基盤を維持することができた。立憲は解散時の議員数を下回り、野党は全体的に後退した印象です。維新が40を超える議席を得ましたが、まだ、関西中心で、全国的な広がりは見せていません。ともあれ今回は、自民党と民主党が落とした部分を、維新が拾い上げたということが言えるのでしょうかね。

静女史:壺齋さん、あなた、ご自分のブログの中で、自民党はあまり議席を減らさないけど、減った部分は維新に流れると予言していましたよね。その通りになったわけね。

壺齋散人:あれは愛嬌と受け取ってください。小生には政治に深くコミットする能力はありませんから、あまり立ちいったことは言わないようにしているのですが、あの発言は飲んだ勢いでのことですので、軽く受け流してください。

無覚先生:その維新は、自民党への批判勢力と受け取られているのでしょう。しかし本質は右翼政党です。今回は、自民党に愛想をつかした層の票が、野党には向かわずに維新に流れた。その結果全体的に、保守化が進んだというのが、率直な印象ではないでしょうか。

静女史:安倍さんの頃から日本の政治は右寄りになってきましたけど、今回の選挙でその傾向が根付いたということなのでしょうか。わからないのは、岸田さんの政治姿勢ですわ。あの人は、ハト派で定評のある派閥の出身で、ハト派のイメージが強いと思われてますけど、総理大臣に就任した以降の言動を拝見していますと、防衛力の強化とか、敵基地攻撃能力とか、かなりタカ派的なことを言ってらっしゃるじゃありませんか。あれは、安倍さんたちタカ派への忖度だという見方もありますけど、それだけではないみたい。自分自身タカ派的な考えも持っているように見えます。

無覚先生:自民党全体が右寄りになっているために、そこで権力を保とうとするためには、ある程度威勢のことを言わないと、皆が付いてこないということもあるのでしょうね。それにしても、今回は政権選択選挙ということが強調されるあまり、体制選択の問題が前面に出て、具体的な政策の議論が少なかったように思えます。

俄然坊居士:具体的な政策という点では、外交をのぞけば、大きな差があるとは思えませんね。岸田政権は、新しい資本主義と言って、分配を重視すると強調している。また、弱者にきめの細かい配慮をするとも言っている。その点は、前の菅政権とは違うところで、なにもかも自助に解消するのではなく、公助を前面に押し出しています。その当たりが国民の支持を集めた原因になっているのではありませんか。

無覚先生:今回は四年ぶりの総選挙ということで、その四年の間に、総理大臣が三人もいたということになり。間に挟まれた菅政権はまずか一年で終わりました。その菅政権が非情に不人気だったので、もしも菅政権のもとで選挙になったら、自民党は大敗していたかもしれないという見方もある。そういう点では、自民党は、岸田さんに党の顔を変えることで、敗退の危機を乗り切った面がある。やはり老成した党という印象があります。

俄然坊居士:自民党に比べると、野党の党首はあいかわらず見栄えがしない。共産党の志位さんなどはもう20年以上も党首をやっている。だから国民としたら、いまさら何をやりたいのだという冷めた気分になるのは、仕方がないかもしれない。立憲も党首の顔を変えていたら、結果はもっと違ったかもしれませんよ。

無覚先生:今回は、その立憲と共産が中心になって、野党の統一候補擁立を成功させた。単純に考えれば、前回野党の獲得した票数が自民党を上回った選挙区では、野党の統一候補が勝つはずなのが、かならずしもそうならなかった。その原因は何でしょうね。

俄然坊居士:やはり共産党へのアレルギーが強いんだと思いますよ。今回は、もしも野党が政権を握る事態になれば、共産党がその政権に強くコミットしてくることが予想された。そこが今までの選挙とは違います。今までの選挙では、共産党は政権への批判票の受け皿だったが、今回は、共産党への投票が、政権の方向性を大きく変える可能性を高めた。そこに国民は不安を覚えたんじゃないか。だから、自民党への批判票は、野党統一候補に流れずに、維新に流れた。維新に流れた票は、政策よりも、自民党の腐敗した部分にお灸をすえるという意味があったのではないか。維新は本来自民党より右寄りです。そこに流れた自民党批判票は、別に日本を右寄りにしたいと思ったわけではなく、単純に自民党を懲らしめてやりたいと思ったのではないか。まあ、菅政権がひどすぎましたからね。

静女史:たしかに菅政権はひどかったわ。政権を担うという意欲が感じられませんでしたし、また、その能力があるとも思えませんでした。自民党内の権力争いに勝ったというだけで、国民の支持を得たというわけでもない。とにかくデタラメな政権でしたわ。

無覚先生:ところで壺齋さんは、静さんがいわれたブログの中で、維新が勢いを得たら、東京のファーストとくっついて、新しい保守党をつくるのではないかと予想していましたね。

壺齋散人:そうなったら面白いという興味本位の気持ちから言っただけで、別に大した根拠があるわけではないんですよ。

無覚先生:しかし、もしそうなったら、それは日本の政治の再編成を招くほど大きなインパクトを持つかもしれませんね。投票率があいかわらず低いままですが、それは政治に面白さがないせいもあります。政治が動いて面白くなれば、投票率も上がるし、政治家も張り来るのではないか。いまは、国民も政治家もしらけきっていて、まるで熱がない。

壺齋散人:しかし、政治が熱気を帯びるようになると、ポピュリストが台頭する恐れはありますね。

無覚先生:今回自民党は、大阪など関西圏では維新に破れて票がのびなかったが、全国的にみると、東京など都市部も含めて万遍なく票を集めている。これは、日本全体が保守化していることの現れと見ていいでしょうかね。

静女史:たしかに国民が保守化していると言えそうなところはありますね。かならずしも現状に満足しているわけではないと思いますが、そのはけ口を野党に求めないで、自民党の自浄努力に求めているようなところが指摘されます。今回自民党は勝利したとはいえ、現役の幹事長はじめ、問題があると見られた人は議席を落としています。だからまじめにやれと、自民党を叱咤していると指摘できるところもあります。要するに今の日本人は、自民党を退場させて、野党に政権を担当させたいとまでは思っていないことは確かなことだと思います。格差社会ということが言われていますが、金持ちは無論、そうでない人も、政治に対しては、激変を望んでいない。それが、近年の保守政権の安定した継続を支えているのではないでしょうか。

無覚先生:最後に壺齋さんにもう一言お願いします。野党は今回はうまく行かなかったが、これであきらめず、来年の参院選でも今回と同様な統一候補の擁立をはかりたいと言っています。それは成功の見込みが高いですかね。

壺齋散人:高いと思いますよ。参院選は、衆院選と違って政権選択選挙ではなく、時の政権への信任投票という色合いが強い。自民党が、国民から高い支持を得続けるとは思えませんから、野党統一候補が躍進する可能性は十分にある。日本の政治システムはそれなりによくできていて、政権の暴走を許さないように仕組まれている。自民党が引き続き支持を得続けるのか、それともお灸をすえられるのかは、自民党の行動次第です。

無覚先生:ともかく、今回の選挙は、日本の政治について、色々考えさせるものがあったようですね。それを確認して、この会を終わりたいと思います。どうもご苦労様でした。



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