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三粋人経世問答


小生には日ごろ懇意にしている人々が何人かいて、学術、文芸、趣味など、テーマにしたがって、それぞれ一家言をもった人たちと語り合える幸運をもてるばかりか、時には杯を傾けながら、肝胆相照らす喜びを感じてもいる。

そんな中でも、小生にとって特別な人たちがいる。いづれの人も志が高く、かつ人間性に溢れたまなざしを以てこの世のことを見つめておられる。小生はそんな彼らの、時に時勢を論じ、時に世の中の不合理を嘆き、また時に身辺の喜びを素直に語るさまを聞くとき、心を洗われるようなすがすがしい気持ちになるのである。

その一人の名を無覚先生という。何事も自覚することなしと、先生本人が謙遜しての名であるが、どうしてどうして、先生の世の中を見る目は冴えていて、何事もその根源に遡って見据えられないではすまないほどである。小生はこれまで、世の中の動きを解釈するについて、先生の薫陶を蒙ること一方ならぬものがあった。

もう一人の名を俄然坊居士という。その名から伺えるように、多少粗忽なところもあるが、国を憂える点では、誰にも引けをとらざるべしと自ら命じている。その覚悟のとおり、居士がこの国を憂える気概には並々ならぬものがある。小生は時に居士の意見と対立することもあるが、居士の率直な人柄は、意見の対立を不毛なものに終わらせず、そこから思いもよらぬ方向を指し示されるようなこともある。

いま一人の名を静女史という。小生の数少ない女性の友人の一人である。女史は女性らしいこまやかな感性を以て世の中を見つめており、決して綿密とも広豁ともいえぬかも知れぬが、時折発せられる彼女の言葉からは、一気に現実世界に引き戻されるような力を感じることもある。

考え方も生き方も微妙に違うこの三人が、なぜかうらやましくなるほど仲がよい。小生はそんな彼らを三粋人と呼んでいる。それぞれ個性の異なった彼らであるが、粋であることでは共通していると思うからだ。粋であるとは、物事にのめり込むことなく、その本質に通じうるということだ。

小生はそんな彼らが時に落ち合って清談をするはずだと聞き知るや、なるべく時間を割いてその輪に加わることにしている。自分からものをいうことは差し控えて、ひたすら彼らの議論に耳を傾けるのだ。


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