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小選挙区比例代表連用制は憲法違反か?


民主党が選挙制度改革の目玉として提案した小選挙区比例代表連用制は、公明党はじめ小政党にとっては、有利になるとあって評判がいいが、自民党には至って評判が悪い。というのも、この制度を適用されると、国会における議席配分上、自民党にとっては格段に不利益に働くからだ。それ故自民党の先生たちの中には、危機感を募らせ、これを憲法違反だといって、絶対粉砕を叫んでいるのもいるという。

本当に憲法違反の制度なのだろうか。それを考える前に、この制度がいかなるものかを正確に理解する必要がある。

いまの小選挙区比例代表併用制では、小選挙区で得た議席はそれだけで完結した成果だとして脇へ置かれ、それとは別に、比例区での投票をもとにして議席の割り当てが決められ、それが小選挙区の議席数に上乗せされる。つまり小選挙区と比例区とを別々のものとして計算したうえで、双方を合算して全体の議席を決めようとするやり方だ。これだと、小選挙区で見られた二大政党制の傾向が温存される一方、弱小政党にも一定の議席が配分されることとなる。

これに対して小選挙区比例代表連用制は、各党に割り当てられる議席の最終的な数を比例区への投票をもとに計算したうえで、実際に比例制の議席を割り当てる際には、小選挙区で得た議席数は控除するというものである。つまり、実質的には、単独の比例代表制と異ならない効果をもたらすわけだ。もしこの制度が成立すれば、日本の選挙制度は180度の転換をすることになろう。

とりあえずここで、この制度が果して憲法違反といえるような代物なのかどうか、考えよう。憲法が命じているのは、国会議員は国民の直接普通投票によって選出されるべきだということと、その一票が平等に行使されるべきだということだ。最高裁判所が、今の国会の状況を憲法違反だと指摘しているのは、小選挙区における一票の価値に大きな格差があるという実態をさしてのことである。そうした基準から、小選挙区比例代表連用制を眺めると、どこに憲法違反の要素があるのか。この制度にあっても、小選挙区での一票の価値が平等に近ければ、決して憲法違反を指摘することはできまい。

憲法問題はさておき、この提案が自民党に受け入れられない理由はこれでよくわかった。また公明党がこの制度を評価する理由も良くわかる。わからないのは民主党の本意だ。民主党は、いまの制度のなかにある、小選挙区重視の制度のおかげで、自民党から政権を取ったわけである。また国民も、この選挙制度なら、自民党に鉄槌を下し、政権交代を実現することができるとの確信にもとづいて、民主党に投票した訳だろう。そうしたいきさつを敢えて無視する形で、実質的には比例代表制と効果が同じ制度を導入しようとしている、その真意はいったいどこにあるのか。

民主党が、野田内閣のもとで支持率を低下させ、その結果次の選挙で大敗するであろうことはほぼ疑いえない、これは民主党の先生たち自身でも認めざるを得ないことだ。こうした状況の中で、次の選挙をやったらどうなるか、民主党の先生たちが戦々恐々としているであろうことは、容易に感じ取れる。もしかしたら、小選挙区の議席をすべて失い、公明党以下の弱小政党になってしまうかもしれない。

民主党はそうなることを真剣に恐れているのだ。だから、せめて一定の議席数を確保するための苦肉の策として、小選挙区比例代表連用制なるものを持ち出したのではないか。そうだとすれば、党利党略だとの批判は免れまい。

付記:筆者は別に小選挙区比例代表連用制事態に問題があるとは思っていない。問題があるのは、党利党略のために、制度を都合の良いように運用しようとする人々の、政治的な思惑なのである。




  
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