日本語と日本文化


麻生政権発足:ニックネームは桜鯛内閣?


麻生政権が発足した。恐らくジリ貧の現行「自民党」が最後に選んだ内閣になるだろう。

なにしろ、小泉内閣が誕生して以来、日本の社会がガタガタになって、国民は自分たちの首が日に日に絞まっていく状況に辟易して深刻な政治不信に陥り、その矛先が自民党に向けられてきた結果、阿部、福田と続いた自民党政権はまともな統治能力を発揮できなかった。麻生政権はそれを受け継ぐ形で発足したわけだが、その誕生を心から祝うものは誰もいないのではないか。

日本国内でさえそうなのだから、国際社会においても、麻生政権の誕生にプラスのイメージを感じ取るものもほとんどない。それを裏付けるように、世界のオピニオンリーダーを自負するとされるメディアは、皆一様に、麻生政権の誕生について黙殺に近い扱いをしている。

ニューヨークタイムズなどは、自民党総裁選そのものには、それなりの関心を示していた。もっとも5人の候補者によるレースが、うわべばかりは賑やかだが中身は何も変わってないことを揶揄して、「豚に口紅」などと報道してはいた。それが麻生政権の誕生そのものには、何の関心も示さないありさまだ。よほどナンセンスに映ったのだろう。

しかしそれはそれで困ったことだ。誰からも相手にされない指導者を戴いている国民は、決して幸福であるとはいえないからだ。

ところで、麻生政権への評価は別にして、日本のジャーナリズムには歴代の内閣にキャッチフレーズをつける習慣がある。たとえば池田隼人内閣は「寛容と忍耐」であり、田中角栄内閣は「決断と実行」であり、三木武夫内閣は「対話と協調」であり、中曽根康弘内閣は「戦後政治の総決算」であり、最近では「日本新生内閣」とか「美しい国づくり内閣」とかいうものもあった。

麻生内閣は素材が良くないためか、今のところ気の利いたキャッチフレーズは生まれていない。その中で朝日新聞の天声人語が、麻生内閣を形容して「桜鯛内閣」と評していたのが目を引いたくらいだ。

桜鯛とは落語に出てくる話である。桜の季節に殿様が鯛を食った、その味があまりにもうまいのでお替りを求めたところ、家臣たちにはお替りの鯛が手元にない。そこで殿様をはぐらかして気をそらせている間に、食い残した鯛の半身をひっくり返して、あたかも新しい鯛に見せかけたという話だ。

天声人語子は、今回の麻生内閣の顔ぶれもこの半身の鯛と異ならないと見ているわけだ。改革を云々しながら、その実は旧態を担ってきた連中ばかりだ、これでは料理を出された者は新鮮さを感じようがないではないか、そう皮肉っているのである。

アメリカのジャーナリストは、時の指導者の言葉を引用して、「豚に口紅」などということができた。日本のジャーナリストは、古臭い落語のネタを引っ張り出して、政治の不毛を揶揄するしかなかったようだ。




  
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