日本語と日本文化
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早口言葉:日本語を語る


先稿「らりるれろ」の中で、酒を飲んで口舌に異常を来すと、呂律が回らなくなることについて述べた。しかし人は、別に酒を飲んでいなくとも、舌がうまく回らないことがままある。たとえば今話題の「骨粗鬆症」という言葉など、どんな場合においてもすらすらといえる人は少ないのではないか。言葉によっては、発音の難しいものはいくらもあり、時に人をして赤面させるのである。

こんな発音上のつまづきを材料にした遊びに「早口言葉」というものがある。誰でも子供の頃に、打ち興じたことがあると思う。それらのいくつかを例にとりながら、人はどのようなときに発音につまづくのか、考えてみたい。

ここに、代表的な早口言葉をいくつか並べてみよう。

「生麦 生米 生卵」
「坊主が 屏風に 上手に 坊主の 絵を描いた」
「スモモも桃も桃のうち」

読者は、これらをうまく発音できただろうか。もしつまづいた人がいたとしたら、どこにつまづいただろうか。まず、これらに共通しているのは、同じような音が並んでいるということだ。一列目は、語頭に「なま」という音を持つ言葉が連続している。2列目は同じ韻を持つ言葉が並んでいる。そして3列目は、
「も」という音が切れ目なく並んでいる。人はどうも、同じような音を切れ目なく連続して発音することが苦手にできているらしい。

音そのものにも、発音しにくいものがあるようだ。1列目と3列目にある、「ま」行の音、また2列目にある「ば」行の音は唇を摩擦して出す音であるが、この摩擦という行為が、音を連続させることに抵抗を生み出すのではないか。

発音しにくいという点では、「か」行のような破裂音もまたそうである。たとえば、

「隣の客はよく柿食う客だ」

この例においては、「かき」、「きゃく」というように、破裂音を組み合わせてできた言葉を連続させている。それが「かきくうきゃく」と続いては、舌がもつれるのも、致し方ない。

また、早口言葉のチャンピオンとされるものに「東京都特許許可局」というものがある。これなどは、「かきくけこ」の発音のしづらさに、「たちつてと」のひっかかりが加わり、日本人にとってもっとも躓きやすい音の羅列となっている。

摩擦音や破裂音が発音しにくいのは、日本人に限らないようで、英語にも似たような事情の早口言葉がある。

Peter Piper picked a peck of pickled peppers.
She sells sea shells by the sea shore.

前の例では、pという破裂音が連続し、後の例ではs という摩擦音が連続している。p もs も単独では何ともない音といえるが、このように連続すると、つい舌を噛むものらしい。 

また、英語には、日本語にはない th という音がある。舌と歯を摩擦して出す音である。これにも、次のような早口言葉がある。

The thirty-three thieves thought that they thrilled the throne throughout Thursday.

どうやら、摩擦音や破裂音といった音は、民族性を超えて発音しにくいもののようである。かといって、それらの音が淘汰されてなくなったりしないのは、別の面で効用があるからだろう。

さて、先ほどの「東京都特許許可局」については、筆者もずいぶん手こずったものである。そこで、いろいろと試してみて、失敗のないやり方を考案した。それを読者に披露してみたいと思う。

まず、「トーキョー トトッキョ」まで一気に発音する。「トーキョート トッキョ」でないことがミソだ。しかして、ここで一息入れたつもりで、「カキョク」とつなげるのである。


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