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NHKの731部隊調査報道


昨夜(8月13日)、NHKが731部隊(いわゆる石井部隊)に取材した調査報道番組を放送したのを、筆者は驚嘆の念を覚えながら見た。というのも、731部隊の問題は、日本史の最も恥ずべき部分であって、取りようによっては、従軍慰安婦問題よりもはるかに深刻な問題だ。今の日本の政権にとっては、絶対に触れられてもらいたくないことだろう。それをあのNHKが、正面から取り上げて、それを放送したのは、実に感慨深いことである。

731部隊の存在や、それが為したことについいては、これまで作家の松本清張や森村誠一などが部分的に取り上げた以外は、歴史学者が本格的に解明したこともなく、その全容は明らかではなかった。これにかかわることがらが明らかにされたのは、ソ連による日本の戦犯裁判の中であったこともあり、これはソ連によるねつ造であって、実際には根拠のないことだったと主張するものも多い。

そんななかでNHKは、ロシア側の裁判記録(音声記録など)や国内に残されていた関連資料、また当時の関係者などに取材して、その概要を明らかにする努力をした。なにしろ731部隊は、敗戦の時点であらゆる証拠(人体実験に付された人々の死体も含めて)を焼却したこともあって、全容解明に結びつく手がかりがあまりにも少ない。そんなハンデを抱えながら、注意深く調査した結果をこの放送のなかで示したわけだ。

それによれば、731部隊による人体実験の被害者は数千人に上り、それに医師を含む多数の科学者がかかわっていた事実が改めて浮かび上がってきた。中にはまだ存命の人もいて、その人たちのなかには、自分のした行為を深く反省している者もいるようだ。その一方で、自分のおぞましい行為を反省することもなく、戦後いちはやく内地に逃れてきて、のうのうと生き延びた人も多かったということらしい。

NHKがいまになってこの問題を取り上げた動機はよくわからない。いまの政権の体質を考えれば、ちょっとした冒険だったはずで、その冒険の意識をNHKのどのレベルまでが共有していたか、興味深いところだ。

NHKはこの報道の中で、大学への軍事研究の広がりに懸念を表する学者の意見を紹介し、そのことを通じて、科学者による戦争への協力に警鐘を鳴らしているのだというような雰囲気が伝わってきたが、もうひとつ、今の政権が国民の支持を失い、そのことで政治的影響力を弱めている事態を踏まえて、いまならできるだろうと高をくくってこんな問題番組の放送に踏み切ったのかもしれない。いずれにしても、NHKとしては勇気ある決断をしたものだと思う。

今後、政権やその意向を踏まえた連中が陰湿な嫌がらせを行うかもしれないが、NHKの諸君は、そうした圧力に屈せず、ジャーナリストとしての矜持を保ち続けてほしいと思う。



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