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南京虐殺の真実:半藤さんの「昭和史」


半藤一利さんは「昭和史」の中で、日本軍による南京虐殺は確かにあったと断定している。ただし、中国側が主張するように30万-40万人もの人間が虐殺されたということは、当時の南京の状況からしてありえない。それでも国民党軍の兵士や一般市民など3万人程度を、日本軍が戦闘行為以外の場で虐殺したことは間違いないようだ、という。

よく知られている通り、南京城攻略は、始まったばかりの日中戦争の最初の段階で起こった。日本軍は、首都を落せば戦いに勝利するという古典的な戦争観にのっとって、当時蒋介石の国民党が首都としていた南京を攻めたのだった。

南京に襲い掛かった日本軍は、いくつかの方面から攻め上っている。中心部隊は揚子江沿いに攻め上った。いわゆる虐殺にかかわったのは彼らで、それに対して南の方からやってきた部隊は、ほとんどかかわっていなかったようだ。彼らは当然「虐殺などは全くしていない」というわけだが、それを根拠にして、南京での虐殺そのものを否定しようとする者がいるから、気を付ける必要がある。

半藤さんがよりどころの一つとしているのは、旧日本陸軍関係者の集まりである偕行社が平成元年に出版した「南京戦史」だ。これは、旧陸軍にとって不利になりかねない記録類に総当たりし、また中国側の公式記録「南京衛戍戦闘詳報」なども参考にしながら、一定の信頼できる歴史解釈をしている。その概要は次のようなものだ。

・通常の戦闘による中国軍将兵の戦死者約3万人
・中国軍将兵の生存者約3万人
・中国軍捕虜・便衣兵などへの撃滅、処断による死者約1万6千人
・一般市民の死者約1万5760人

このうち問題となるのは、三番目の捕虜と4番目の一般市民の殺害である。これらは裁判もせずに殺したわけだから、国際法が禁じている捕虜の虐待あるいは虐殺だと非難されても仕方がない。

なお、事件直後の昭和13年1月、作家の石川達三が南京を訪れ、そこで目撃した中国人虐殺の様子を小説「生きている兵隊」のなかで書いたところ、発禁処分に加えて執行猶予つきの懲役刑を食らった事実について、半藤さんはさらりと触れている。

この小説は筆者も読んだことがある。たしか日本の軍人たちが、とらえた中国人に対して日本刀で首を切り下ろすなどの、残虐行為を働いた場面を描いたところが記憶の底に残っている。

南京虐殺の詳細はいまもって明らかにされていない。歴史上の節目となる出来事であることに間違いないのだから、日中共同で、真相を究明する必要があろう。


    

  
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