日本語と日本文化


在日コリアンの開放と分断:日本と朝鮮半島


NHKスペシャル「日本と朝鮮半島」シリーズ第4回目「開放と分断 在日コリアン」を見た。今日日本国内に居住する在日韓国・朝鮮人約90万人の祖先たちが、どのような歴史的事情によって、戦後の日本にとどまり、その後今日にまで続く政治的・社会的境遇に当てはめられてきたかを、検証した番組である。

日本の敗戦によって朝鮮半島は日本の統治から解放された。その時点で日本に存在していた朝鮮人の数は約200万人、ほとんどのものは祖国への帰還を望んだが、さまざまな事情によって祖国に戻れず、引き続き日本に在留したものが60万人に上った。

彼らはその後、日本の国にあって自分たちの民族的なアイデンティティを大切にしながら生きてきた。だがその道筋は決して平坦なものではなかった。祖国においては南北の分断、日本にあっては政治的・社会的差別に直面したのである。

政治的差別の最たるものは、皇民化政策のもとで帝国臣民として補償されていた参政権を取り上げられたのを始まりとして、従来有していた日本国籍を剥奪され、外国人扱いされた上で、戦時補償などの権利から除外されたことだ。

彼らの多くは自分の意思によって日本にやってきたとはいえ、日本の戦争遂行に協力し、兵役を始め日本の臣民と同じ義務を果たしてきた。歴史的な事情からして、たんなる外国人ということはできない。戦後処理という異常な事態のなかでのこととはいえ、それまでに有していた権利を合理的説明もなく剥奪され、しかも民族のアイデンティティを脅かされるような事態におとされたことは、人間としての普遍的な権利、つまり基本的な人権を侵害されたというに等しい、番組はこのようにいう。

日本以外の国でも、植民地の人民の政治的・社会的権利の取り扱いをめぐってさまざまな問題に直面し、それなりに苦悩してきた歴史がある。しかし植民地の人々の権利をかくもあっさりと剥奪し、一般の外国人扱いして、過去の歴史的事情に頬かむりするかの如き姿勢をとった政府は、世界的にも珍しいといえるのではないか。

そんな乱暴な政策が成立しえた背景には、GHKの日本統治をめぐる特殊な事情があった、と番組は推測する。そして最近公表されたアメリカ側資料や、日本側の証言をもとに、その推測を裏付けようと努めている。

番組のシミュレーションは次のようなものだ。

日本側についてみれば、在日朝鮮人は政治的にも社会的にも、もういてほしくない人間に変っていた。彼らに選挙権を行使させれば、天王星の屋台骨にひびが入りかねない悩みがあるし、また食料不足のなかで、日本人の口腹を満たすのに汲々として、朝鮮人に食わせるだけの余裕がなかった。

アメリカ側についてみれば、戦後一気に表面化した冷戦への対応が、対日本統治のあり方を制約し、朝鮮人問題はその付録のように取り扱われた事情があった。アメリカの関心は日本を反共の砦に仕立て上げることであり、朝鮮人の政治的権利など、この枠組みの中でしか意味を持ち得なかった。

しかもアメリカは在日朝鮮人に偏見を抱いていた。彼らはみな共産主義に毒されていると判断していたわけである。

こんなわけだから、アメリカは朝鮮人の政治的な要求に対しては、日本政府と協力して、これを弾圧する態度に出た。朝鮮人学校における朝鮮語教育をめぐって発生した阪神教育闘争などは、其の最たるものである。

こうして在日コリアンの問題は、そのときどきの政治的な背景に翻弄され、ご都合主義的に扱われてきた歴史がある。番組はそう結論する。

ご都合主義は問題の本質を避けた手法であるから、当然矛盾を内在させている。その矛盾は、いついかなるところで爆発しないとも限らない。なぜなら民族が受けた苦しみは、受けた世代だけで消滅せずに、その子や孫の世代にまで引き継がれるからだ。

日本人は、在日コリアンの問題に、もう一度正面から向き合い、自分たちがかつて彼らに対してなしたことを深く考え直す必要がある、そうしなければ民族同士が真に理解しあうことはできない、そう語りかけられているように聞こえた。


    

  
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