日本語と日本文化


戦争に動員された人々―皇民化政策の時代:日本と朝鮮半島


NHKの特集番組「日本と朝鮮半島」の第三回「戦争に動員された人々―皇民化政策の時代」が放送された。第二次大戦末期における、日本による朝鮮人の兵力化、労働力化政策の意味を問うた番組である。

大戦末期、日本軍の軍人、軍属として徴用された朝鮮人の数は24万人、また日本国内の労働力不足を補うために勤労動員された朝鮮人の数は70万人に上るとされる。彼らの運命はいろいろな意味で苛酷なものがあったが、もっとも悲惨だったのは、彼らが自らの行為を民族への裏切りであったと断罪され、対日協力者のレッテルを貼られて、同胞たちから迫害を受けたことである。

今日韓国では、大戦末期に日本の軍隊や産業に、意思に反して徴兵あるいは徴用され、その結果経済的・社会的な損害を被った人々への補償が進められているが、その補償を求めるために名乗りを上げた人々の多くは、単に補償を受けるのが目的ではなく、対日協力者としての汚名を晴らし、韓国人としての名誉を回復するのが目的だという。

かくも多くの朝鮮人を日本の軍事政策に深く組み込むに到った動機は、朝鮮人の徴兵と軍需産業への動員であったといえる。朝鮮総督府を始めとした日本の朝鮮統治の当事者たちは、長い間朝鮮人を徴兵することに対しては慎重であったとされるが、大戦の末期に至って戦局が悪化し、兵力、労働力ともに枯渇する事態を迎えて、そうも言っていられなくなった。

そこで日本人向けに国家総動員体制を敷くのと平行して、朝鮮人に対しても戦争へと深く組み込んでいく政策が採られたのである。

だが植民地とはいえ、異国人を自国の軍人にすることにはリスクが伴うものだ。戦場で後ろから鉄砲を撃たれるようでは困るのだ。そこで朝鮮統治の当事者たちは、朝鮮人を対象にして徹底的な洗脳政策を実施し、日本という国家に対する忠誠心を植えつけようとした。いわゆる皇民化政策である。

この政策は南次郎、小磯国昭の二代にわたる朝鮮総督の下で遂行され、一村一神社、日本語教育の強要、創氏改名、青年練成所の普及などが図られた。こうして日本精神に理解をもつようになったと思われる人々の中から、軍人や勤労者が選抜されていったわけである。

この皇民化政策が朝鮮人の間にどれほどの影響を及ぼしたか、厳密な検証はなされていない。だが多くの朝鮮人は、自分の意思に基づいて日本化に同調したのではないと感じているのではないか。

番組の中で紹介されていたチャンさんはニューギニア戦線に送られたが、そこでは216人の朝鮮人同胞が戦死し、チャンさんひとりが生き残った。そのチャンさんはいうのだ、ニューギニアで死んだ我々朝鮮人の死は、日本人の場合にいえるような殉死ではない、それは受難の戦死だ、朝鮮人は何の意味もない戦争に駆りだされ、無駄な死を死んだのだと。

なるほどどんな民族でも、同胞のために死ぬることには意味があるものだが、他国の抑圧者の利益のために死ぬことには何の意味もない。これは普遍的な真理だ。


    

  
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