日本語と日本文化


三粋人経世問答:2014年総選挙を語る


無覚先生:安倍首相による一人芝居ともいえる抜き打ち解散・総選挙が行われ、自民・公明の連立与党が再び衆議院の三分の二を占めるという圧倒的な勝利に終わりました。投票直前までは、自民党単独でも三分の二に行くのではないかとの説がメディアに流れていたわけで、それと比べれば聊か拍子抜けの所はあるが、与党圧勝というのはやはり重い結果だと言える。それに、解散した当時は、自民党は議席を減らすだろうという憶測も流れ、安倍さん自身もそれを意識してか、勝利の基準を議席の過半数に設定するなど、控えめなところもあった。そんなこんなを忖度しても、今回の結果は、安倍政権にとっては大出来だったと言えましょう。そこで、安倍さんが衆議院の任期をまだ半分も残し、また鋭い対立案件が存在しない状態で解散・総選挙に打って出たこと、そしてその結果このような大きな勝利を勝ち取ったこと、まずはそこらへんから話題にするとしましょう。

俄然坊居士:安倍さんは実にうまくやったと思いますよ。政治状況からして、安倍さんが解散・総選挙をするタイミングとしては、最もよい時期を選んだ。これが来年にずれこんでからだったら、こんなにも勝てることは期待できなかったでしょう。支持率が低下する前に、また野党の勢いが弱い時期に、タイミングよく解散・総選挙に打って出た、ということでしょう。これで向う四年間、安倍政権は衆議院で三分の二の多数を占めることができる。安倍さんとしては、もしかしたら六年間にわたって、首相として理想的な足場を確保することができる。安倍さん悲願の宿題を実行するには、理想的な状況を作ることができたということでしょう。

静女史:でもそれって、政治の私物化じゃないかしら。総選挙するには何百億円もの税金がかかるわけでしょう。大した理由もないのに、そんなに巨額の税金をかけて、総選挙をするなんて、いくらなんでも安倍さんの身勝手というものだわ。

俄然坊居士:政治家というものは、そんなものですよ。自分の最も都合の良いように政治的な資源を使う。それは当たり前のことです。安倍さんは、その当たり前のことをしただけで、あまり責めるには当たりませんよ。

静女史:そんなことをおっしゃっては、政治がシラケるばかりだと思うわ。今回の投票率はやっと52パーセントだったというじゃありませんか。これは国民の半数近くが、この選挙には意味がないと感じている証拠だと思うわ。

無覚先生:それにしても安倍さんの勝ちっぷりは見事でしたね。それには、投票率が低かったことも働いていると思われます。自民党は、投票率が低ければ低いほど勝利する確率が高くなるという統計もあるようですから。

俄然坊居士:たしかにそういう側面がないわけでもないかもしれませんな。投票率が高いということは、国民の間に政治的な興奮度が高まっていることでしょうし、そのような時には、投票先は非自民に流れる傾向があることは、これまでの経験から言えなくもないですから。安倍さんとしては、国民の間に政治的な興奮が高まる前に選挙をやれば、自分に優位になると踏んだ可能性はあるでしょう。しかし、安倍さんを勝たせたのは投票率の低さだけではないと思いますよ。最も大きな要因は、野党のだらしなさです。最大野党の民主党は、二年前の敗北からまだ立ち直れていない。国民の民主党に対する怒りと蔑みは、わずか二年で解消されるものではない。少なくとも7-8年はかかるでしょう。維新以下の第三勢力の内、維新はなんとか生き残ったけれど、次世代の党ほかの政党はみな消えてなくなってしまった。勢力を伸ばしたのは共産党だけです。これは、どういうことか。要するに、有権者にとって、自民党に代る有効な対立軸がないということですよ。これでは、自民党が勝つのは当たり前だ。安倍さんはそうした事情が十分にわかっていたから、今回の勝負に出たのでしょう。その結果は安倍さんの思惑通りになった、というわけです。

無覚先生:ともあれこれで安倍さんは、今後四年間にわたって非常に有利な政治的立場を手に入れることができたわけで、安倍さんはそれを追い風にして、いろんなことをするだろうと予想される。それについては色々な見方が行き交っているようですが、お二人はどうお考えになるか。まず、安倍さんが選挙中一番強調していた経済政策について。安倍さんはアベノミクスを引き続きやって行けば日本経済はきっとよくなる、日本経済をよくするにはこれしかない、と強調していましたが。アベノミクスで日本経済はよくなるとお考えですか。

俄然坊居士:アベノミクスの最も肝心な部分は、成長戦略です。これが本格化しないと、日本経済が持続的に拡大していくことはないでしょう。金融緩和も財政出動もカンフル剤のようなもので、効果は一時的でしかない。日本経済を長期的な成長軌道に乗せるには、やはり成長戦略が有効に働いていく必要がある。小生は、その辺については、そこにおられる壺齋さんと同じ認識であるわけです。

壺齋散人:それは恐縮です。たしかにおっしゃるとおり、金融緩和も公共事業もカンフル剤のようなもので、効果はそれが実施されている期間と範囲に限られます。金融緩和をやめれば再び円高にもどるでしょうし、公共事業を縮小すればその分雇用も失われていくでしょう。ですから、成長戦略としてのイノベーションが必要だと私は日頃思っているわけですが、何をその成長戦略の柱に据えるかについては、議論が必要だと思っています。

無覚先生:安倍さんの成長戦略は、雇用の弾力化だとか、農業の資本主義化とかいうことだと思いますが、それではいかんと言うことですか。

壺齋散人:いや、一概にいかんとは申しませんが、安倍政権の成長戦略は供給能力の強化をターゲットにしたもので、今の日本経済が陥っている問題には正しく答えていないような気がしています。ともあれ、私は筆記者としてこの場におるので、皆さんの議論に私見を差し挟むことは控えさせていただきたい。

無覚先生:安倍さんのやろうとしていることで見逃せないのは、安倍さん一流の復古的な政策です。なかでも最も大きなものは憲法改正ということになるかな。その辺を安倍さんは今後どのようにやろうとして行くか。またそれの持つ政治的な意味について、皆さんはどう思いますか。

静女史:安倍さんは、右翼的な姿勢をもっと強く押し出してくると思う。その結果近隣諸国との対立が深まっていくことを心配しています。来年は第二次世界大戦終了70周年にあたり、また日韓国交正常化50周年の節目にあたっているでしょう。だから日本の戦争責任の問題が改めてクローズアップされると思うのよ。それに対して安倍さんは、日本の戦争責任問題を極力避け、あわよくば過去を棚上げにしたままで今後の日本を論じるようなやり方を取るだろうと思います。安倍さんの政治的信念はそれとしてわからないでもありませんが、それが政治的には、日本の国際的な孤立をもたらすのではないかと危惧しています。

俄然坊居士:いや、小生はそんなに心配はしていない。安倍さんはなかなかのリアリストですから、無用に対立を煽り立てるようなことはしない筈ですよ。例えば従軍慰安婦の問題にしてからが、国内では憎っくき朝日新聞を攻撃しつつ、もうこんなことにかかずらわる必要な無いのだと叫びながら、海外向けには河野談話を継承するといっているではありませんか。安倍さんは、その辺のマヌーバーは心得ていますよ。

静女史:でもそれってダブルスタンダードでしょ。悪い言葉で言えば二枚舌ですよ。そんな態度で世界中をいつまでも騙せませんよ。いつかは馬脚が現れるに違いありません。

無覚先生:憲法改正は、安倍さん最大の悲願だが、これには相当高いハードルがある。まず、参議院で与党が三分の二を取れていない。これを何とかしなければ、改正に向けた具体的な日程が立たない。最も望ましいのは、再来年の参議院選挙で参議院でも三分の二を取ることだが、もしそれがかなわないならば、野党の一部を抱き込むとか、いろいろ方法は考えられる。安倍さんがどれだけ本気になってこの問題に取り組んでいくか、興味のあるところですね。

俄然坊居士:憲法改正も、安倍さんがその気になれば、そんなに難しいことではないと小生は思っています。憲法改正の最大のハードルは国会内部にあるのではなく、国民の中にあるわけで、それはつまり、国民の平和を重んじる意思が戦争をしたがる意思を上回っているということですが、そんな関係は比較的簡単に変えることができます。一言で言えば、国民を好戦的な気分にすればよいのです。その方法はいくらでもあるでしょう。ともあれ国民が一旦好戦的な気分に包まれてしまえば、憲法改正のハードルなどないも同然です。ですから、憲法改正は、言われているほどむつかしいことではない。要するに安倍さんのやる気次第です。おそらく今日の日本の政治家で、憲法を改正して、日本を軍事オタク国家にしたいと考えている政治家は安倍さん以外にはないわけですから、安倍さんには腰を据えて取り組んでもらいたい。

静女史:あら、俄然坊さんはいつから憲法改正論者になったのかしら。わたくし、俄然坊さんが穏やかで謙虚なお人柄なので、てっきり平和主義者と思っていましたけれど。

俄然坊居士:いや、小生は平和主義者ですよ。誤解の無いように言いますが、国として平和を守るためには、時には戦争する意思を示さねばならぬ場合もあると言っているのです。そのためには、憲法を改正して、大手を振って戦争できるような状態にしておく必要がある。そう言っているだけです。

無覚先生:おや、いつもどおり議論が白熱してきましたね。白熱が沸騰を呼び込む前に、今日の議論はこれでおしまいにしましょう。




  
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