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三粋人経世問答:安倍政権の解釈改憲を語る


無覚先生:安倍政権がついに集団的自衛権の行使を容認することについて閣議決定しましたね。色々批判的な意見があったなかで、十分な議論を尽くすことなく、それこそあっという間と言ってよいほどの短期間で、従来の政府がとってきた憲法解釈を、180度転換しました。そのことによって、少なくとも内閣の姿勢としては、いつでも集団的な自衛権の発動が可能になる。これについては、憲法を無視するものだとか、これまでの国是である平和主義を捨てるものだとか、批判的な意見がある一方、日本の安全保障と言う点から、評価する見方もある。さて、皆さんはどのように評価しますか。

静女史:わたしは全く評価できないわ。それどころか、全面的に反対です。理由は二つあります。一つは、多くの憲法学者さんたちがおっしゃてるように、憲法と立憲主義を真っ向から踏みにじったという点です。もうひとつは、安倍政権にきな臭い雰囲気を感じるからです。安倍政権は、これを足掛かりにして、早速戦争の準備を始めかねない、そんな雰囲気を感じます。それはとても危ない。女性の多くはそう感じているのではないかしら。

俄然坊居士:自分はもちろん評価しますよ。これで日本もやっと、一人前の国になった。これまでがおかしかったのです。丸腰のままで国の安全が確保できるなんて、全くの幻想です。これまでは、その幻想も破綻せずに来たが、いまや、安倍首相も言うとおり、日本を取りかこむ安全保障環境が激変した。いつまでもお人よしでいては、いつなんどき外国の侵略を受けるかもしれない。その意味で、今回の措置は非常に適切だったと思いますよ。

静女史:それも一つの見方かもしれませんけど、それなら一層、国民に直接話しかけて、憲法改正なりの正式な手続きを踏めばいいんです。それをやらないのは、国民がそれを許さないと判ってるからでしょ。そう判っているから、密室でこっそり談合して、それをもとに内閣の判断だけで、憲法の解釈を変更しようとするんだわ。そんなのフェアじゃないと思うんです。

俄然坊居士:フェアもなにも、そんなことをいって手をこまねいていては、外国に付け入られてしまいますよ。今や、お人よしの国家は、世界中から尊敬されないような世の中になっているわけだから。いつまでも、お人よしでいるのはよくない。

静女史:あなたは、今にも日本が外国から侵略されるようなことをおっしゃるけど、その外国って中国のことをいってるの?

俄然坊居士:かならずしもそれだけじゃない。お人よしの国家は、どんな国からも攻撃される隙をもっているということです。その隙を埋めるためには、集団的自衛権も行使できるようにしなければならない、そう言っているだけです。

静女史:でも、集団的自衛権と言うのは、外国を守るために日本も武力を行使するということでしょう。そんなことをしたら、日本はかえって第三の外国から攻撃されやすくなる道理じゃないですか。少なくとも憲法には、そんなことが許されるとは書いていないわ。その憲法の書いていないことを、安倍政権はやろうとしているわけですから、これはどう見ても憲法違反です。本来憲法を守るべき立場にある総理大臣が、その憲法を公然と踏みにじるのは、ある学者さんが言っていたように、憲法のハイジャックだわ。また、他の学者さんはクーデターとまでいっていましたけれど、わたしもそう思います。

俄然坊居士:クーデターとはひどい言い方ですな。安倍政権は、国民の生命や安全を守るために、集団的自衛権を行使したいと言っているだけですよ。それが何故クーデター呼ばわりにつながるのか。自分には納得できませんな。

無覚先生:初めから激突の様相を呈してますね。まあ、それほど問題が大きいということなのでしょう。だが、贔屓目にみても、安倍政権が独走的だったという印象はぬぐえない気がしました。安倍政権は、国会の議論をほとんど経ないで、与党内だけの申し合わせで決めてしまった。密室談合と言われても仕方のない面がある。第一安倍首相は、当初は憲法改正に非常に意欲的だった。その意欲に従って、国民を説得し、憲法の定める正式の手続きに従って憲法改正を行い、その中で集団的自衛権も含めた戦力の行使について明文化しようとするなら、それについては、誰からも文句をいわれなかったと思う。ところが、憲法改正についての国民の反対が非常に根強いという事態に直面して、解釈改憲という形で目的を果そうという方向に切り替えた。国民の多くはそう受け取っている。だから、これほどまでに反対の声が出て来たのだと思える面はある。

俄然坊居士:そこのところが、見方の別れるところです。反対派の人々は、憲法改正が筋だと形式的なことばかりをいうが、いまやそんなことを言ってられる局面ではないということを理解しなければならない。いまや、一国だけで安全を守れる時代ではなくなったのです。中国が台頭する一方、アメリカの実力は総体的に弱まっている。そんな中で、中国の横暴ぶりに有効に対抗するためには、日本とアメリカが共同して当たる必要がある。集団的自衛権は、そうした日米の共同防衛を確実なものにするうえで、是非とも必要なのです。事実、今回の安倍政権の決定を、アメリカ側は非常に高く評価しているではありませんか。

静女史:あら、俄然坊さんの本音が漏れてきましたね。さっきは、特定の国を想定したものではないというようなことをおっしゃっておきながら、今度は、アメリカと組んで中国に対抗するんだとおっしゃる。どっちが、ホントの本音なのかしら。

俄然坊居士:たとえばの話ですよ。しかし、中国の脅威が高まっていることは間違いない。たとえば尖閣にしたって、日米が軍事的に一体化していないと先方で判断したら、実際に取りに来るかもしれない。集団的自衛権は、そうした中国の思惑に対して、抑止力として働くのです。

静女史:わたしは逆だわ。むしろ相手を挑発する効果の方が大きいと思う。だいたい、安倍さんのやり方を見ていると、不必要に挑発しているようなところがあるわ。自分で相手を挑発しておいて、その結果生まれる緊張を理由にして、更に中国との対立を煽っているように見えてしまう。それを安倍さんの自作自演だと言った人がいましたけれど、わたしもそう思うわ。安倍さんのそうした唯我独尊的なところは、韓国との関係まで損なっている。今回の慰安婦問題への取組にしても、一方では河野談話を継承するといっておきながら、もう一方では、河野談話には根拠がなかったみたいな言い方をする。二枚舌といわれても仕方がないと思います。そうした二枚舌は、外交のあらゆる面に表れていて、対外的には民主主義の擁護者みたいな顔をして、国内向けには民主主義の破壊者として振る舞っている。これでは二枚舌どころか、分裂病というべきだわ。今回の問題でも、一方では公然と憲法解釈を変えておきながら、一方では従来の解釈となんら変わるものではありませんなどと、見え透いたことをいう。そんな言い分を誰がまともに受け入れるものですか。

俄然坊居士:いや、見え透いているわけではなく、これはこれで、安倍さんなりに誠実な態度なのだと思いますよ。ただ、安倍さんがあまり論理的でないことは認めなければならないかもしれない。だが、安倍さんにとって論理などは二義的なのですよ。一義的に大事なのは、ハートなんです。つまり、国を守ろうとする意気込みのハート、それが重要なんです。論理などというものは、事態を正当化するために使うべきものであって、それ自体に意味があるわけではない。本当に重要なのは、国を守るためにはなにが必要か、そこを見定めることであって、憲法解釈がなんだらかんだらとか、そんな空論にうつつをぬかすことではない。

静女史:そんなことを言ったら、政治なんて成り立たないと思うわ。政治って、様々に異なる意見を持つ国民に対して、国の方向付けを示すことではないかしら。そのためには、異なる意見を持つ人々の間で、議論を尽くすことが大事だと思うわ。その議論を抜きにして、為政者だけの判断で国の方向を決めるのは、一種の独裁政治だというべきだわ。

俄然坊居士:シュミットという政治学者が、危機の時には独裁が認められると言っています。つまり、国が危機に瀕している時には、国内でああでもないこうでもないと議論している暇はない、そういう時には独裁者が現れて国の方向を示してやる必要がある。こうしたシュミットの思想は、いまの政治状況の中で広い支持を集めています。今の日本もまた、そのような危機の状況にあるのです。だから、安倍さんが多少独裁的に振る舞っているように見えるとしても、非難されるべき筋合いのものではないというべきです。

静女史:あなたがいま言ったようなことを、安倍さんと安倍さんのお友達も思っているわけね。だから、ナチスに見習えなんて発言が出てくるのでしょ。

無覚先生:話がなかなか噛みあいませんね。しかし、安倍政権が集団的自衛権を行使できると決定したことで、今後日本が戦争をする可能性が、従来以上に高まったことは間違いないようだ。その評価を巡って、静女史は反対の意見を持ち、俄然坊君は賛成しているということだね。

俄然坊居士:新聞の論調も真っ二つに分かれてますな。朝日や毎日はこれを立憲主義の破壊と平和主義の放棄だと言って批判しているのに対して、産経や読売は、国として当然のことを行ったまでだと言って評価している。要は何を基準に評価するかと言うことです。朝日や毎日は、立憲主義だとか平和主義だとかといった抽象的なお題目を根拠にしているのに対して、産経や読売は、国のあり方という、もうすこし具体的な価値を根拠にしている。私の場合には、後者と同じ立場に立つということです。

静女史:でも、それは、民主主義や立憲主義がどうでもよいものだということにはつながらないと思うわ。少なくとも、日本の為政者は、そうした価値を尊重する立場に立つべきだと思う。だって安倍さんだって、対外的には民主主義の擁護者みたいな顔をしてるじゃありませんか。それと同じ顔で、国民にも向きあって欲しいわ。また、産経はともかく読売新聞は、戦時中にもお上の意向に迎合して、戦争を煽り立てていたじゃありませんか。それと同じことを今もやっているというのは、歴史を学んでいない証拠だと思うわ。

俄然坊居士:なかなか手厳しいことをおっしゃる。

無覚先生:議論はどこまでも噛みあわないようなので、今日はこの辺で終わりとしましょう。




  
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