日本語と日本文化


三粋人経世問答:2013参院選を語る


無覚先生:今回の参議院選挙は、予想通り自民公明両与党の圧倒的勝利に終わりましたね。合わせて三分の二を超えるまでには至らなかったが、安定多数には達した。これで両与党は、衆参のいわゆるねじれを解消して、安定的な政治運営ができるようになったと、メディアは一様に積極的に評価している。その一方で、多数に驕る自民党が暴走し出すのではないかと危惧する人もいる。実際安倍さんは、憲法改正とか原発再稼働、あるいはTPPといった与野党対立案件については、選挙期間中封印して、もっぱら経済回復に集中していたわけだが、衆参の絶対多数を背景に、こうした案件について持ちだし、ゴリ押しするのではないか、との観測も流れている。こうした事情について、お二人さんは、どんな風にお考えですか。

静女史:私はとても心配だわ。安倍さんのことだから、力を得たことで、その力を振り回して、日本をとんでもない方向に引っ張っていくんではないかと。とても心配なの。衆参のねじれはたしかに解消したけれど、こんどは安倍さんと国民との間で別のねじれが生じるのではないかと、私は心配しています。

俄然坊居士:いや、国民とのねじれを心配するには及びませんよ。だって安倍さんを選んだのは国民なんですから。安倍さんは自分を選んでくれた国民のためにも、自分の日頃の政治信念を実現するようにすればよい。憲法改正にしても、原発政策にしても、あるいは近隣外交にしても、自分の考え方にそって邁進していけばよいのですよ。そんなに心配することはない。

無覚先生:ところで、自民党が大勝するだろうことは十分予想されていたわけだが、何故こんなにまで自民党が強くなったのか。三年前には予想もできなかったことが今生じている。これはやはり、野党がだらしないからなのか、あるいは自民党の株が上がったからなのか。その辺をどう考えますか。

俄然坊居士:やはり野党がだらしないとは十分にいえる。特に民主党。これはいまだに国民の信頼を回復できていない。なにしろ三年間の与党時代を通じて政権担当能力を示せなかったばかりか、内輪の足の引っ張り合いばかりして国民からあきれられた上に、最後には国民を騙したわけだから。その罪は大きい。この政党が国民の信頼を回復するためには、単に時間を要するのみならず、抜本的な再編を行う必要があるでしょう。いまのままのあり方で、国民の信頼を回復できると思ったら大間違いです。

静女史:俄然坊さんの今の意見には、私も同意できる点があるわ。民主党はもともといろんな考えを持った人々の寄り合い所帯だけれど、それにしてもまとまりのなさにはあきれ返るくらいですものね。民主党は、もう少し共通した考え方の人々で構成されるように、もう一度再編成する必要があるかもね。

無覚先生:ほほう、どんな方向へとお考えですか。

静女史:もっとリベラルな方向へ純化して欲しいわ。少なくともアメリカの民主党並みになって欲しい。いまの民主党には、自民党顔負けの保守主義者もいれば、昔の社会党の生き残りも居たりして、とても同じ理念をともにする人々の集まりとはいえないですよ。ごちゃまぜ政党という点では、一時期の自民党よりもまとまりがない。

無覚先生:民主党に対する厳しい見方はお二人とも共通するところがありますが、かといって、民主党にかわる対抗勢力はいまのところ日本には存在しないと言ってよい。維新の会やみんなの党など第三極といわれる政党には、一時期のような勢いがなくなって、自民党への批判票の受け皿ができていないというのが、今の日本の政治状況の不幸な点だ。この辺をどうお考えですか。

俄然坊居士:今回の得票率は、実に52パーセント台の低さです。国政選挙でこんなに投票率が低いというのは、ある意味非常に危険なことです。そういう危険なことが起こっているというのは、自民党への批判票の行き場が無くて、それが棄権に回っている。そういうことでしょうな。そういう意味でも、野党のだらしなさというのは、犯罪的といってもいいでしょうな。

静女史:たしかに、自民党では困るけど、かといってそれに代わる選択肢がない、というのが今の状況かもね。

無覚先生:ところで壺齋さんは、先の東京都議選に触れたブログ記事の中で、多くのシラケた人が棄権したおかげで自民党が相対的に浮上しただけで、自民党の獲得した絶対得票は有権者の6分の1に過ぎない。これで有権者の支持を獲得したなどと、胸を張って言えたものじゃないと書いていましたが。今回の選挙も同じようなものだとお考えですか。

壺齋散人:いや、小生はあくまでも皆さんの議論を傍聴する立場に徹していたいと思いますので、贅言を費やすのは控えたいと思いますが、まあ、今回も都議選の場合とほぼ同じようなものだと、いえないことはないでしょう。

無覚先生:自民党よ、驕るなかれ、ということですね。ところで、今回の自民党勝利の要因として、アベノミクスといわれる経済政策が有権者に評価されたからだという見方がありますが。これについてはどう思いますか。つまり、自民党が勝ったのは敵失によるばかりではなく、自分たちの努力もあずかっているという見方があるわけですが。

俄然坊居士:たしかにそれは言えると思います。アベノミクスには色々な評価があり、壺齋さんなどは積極的には評価しておられないようですが、やはり評価すべき点はあるんで、その証拠に少しずつではあるが、実体経済もよくなってきている。国民の多くはそれを評価して、今後の経済運営に期待したからこそ、自民党を押し上げたのではないか。小生はそう考えます。

静女史:私は、アベノミクスは強者のための政策で、国民全体にプラスになっているとはいえないと思う。円安株高などと浮かれている人がいるけど、円安で潤っているのは一部の輸出業者だけで、国民の大多数は円安による輸入物価上昇に苦しんでいるというのが実情でしょ。株高で懐が潤っているのも一部の投資家だけで、国民大多数には何の恩恵もないですもの。

無覚先生:ともあれ、今回安倍首相はアベノミクスに集中して、憲法改正をはじめとした他の重要問題には封印をする立場をとった。しかし、衆参で安定多数をとったことで、今後、そういう案件の実現に向けて積極的に動いていくことが予想される。そうした動きに対して、お二人はどのようにお考えですか。

静女史:さきほど政権と国民とのねじれの話をしましたが、安倍さんが国民大多数の考えとは異なった方向へ走っていこうとすれば、やはりねじれが生じるでしょうね。たとえば安倍さんがこだわっている憲法96条の改正や、原発の再稼働についても、国民の過半数は慎重意見だという世論結果がでています。そうした世論を無視して自分の意見をゴリ押しするようだと、私としても重大な危機を感じないではいられなくなると思う。

俄然坊居士:日本が民主主義の国家であり、国民の意思を尊重した政治を行うのが民主主義というものだということは、安倍さんだって重々わかっていると思うから、そんなに危惧することはない。いくら安倍さんだって、国民の意思に反した政策をゴリ押しすることはないだろうし、またゴリ押しできるものでもない。

静女史:でも、集団的自衛権のこと一つを取って見ても、安倍さんは、祖父の岸元首相以来歴代の政権が、いまの憲法は集団的自衛権を認めていないという解釈をしてきたことを知ってか知らずか、憲法を改正して正式に位置づけできなければ、憲法解釈を変更してできるようにしようとしてるでしょ。これは明らかに、自分の意見を通すためには何でもありといった、安倍さんの強権的な姿勢の表れだと思う。だから俄然坊さんのいうように、安心してばかりもいられないわ。

無覚先生:外交についてはどうでしょう。お隣の中国や韓国は、今後安倍政権が長期化すると、日本との関係も長期にわたって冷えつづけ、また緊張も高まる恐れがあると警戒しているようですが。

俄然坊居士:そんな警戒を気にする必要はありませんよ。日本は日本の立場で外交を進めればよいのだから、何も中国や韓国のいうことに、いちいち反応することもないし、ましてやへりくだる必要もない。例えば、中国との関係にしても、それがギクシャクしているのは、むしろ中国側に原因がある。日本はいつだって話し合いに向かって扉を開けているのだといっているのに、その扉を開けようとしないばかりか、公然と挑発しているのは中国のほうですよ。

静女史:そうとばかりも言えないと思うわ。売り言葉に買い言葉と云う言葉があるけど、日本の方でも相手の感情を逆なでして、対立を煽っているような面も見えるわ。やはりもっと冷静になって、長いスパンでものごとを考え、進めて行って欲しい。絶えず隣人とごたごたしているなんて、ちょっと異常だと思うわ。

無覚先生:こと政治のことになると、お二人の意見はなかなか一致しないようですね。その一致できないのはできないとして、最期にお聞きしたい。安倍さんにとって最も重要な政治的イシューは憲法改正であると、安倍さんが自身日頃からいっているし、機会があれば是非実現したいともいっている。そんな中で、今回は憲法改正にとっての千載一遇のチャンスだと捉えて、かなりなエナルギーをかけてくるだろうと予想されています。安倍さんのそんな思惑が実現する見込みはあるのでしょうか。

俄然坊居士:可能性は十分あると思いますよ。なにしろ改憲に積極的な勢力は、衆参ともに3分の2どころか、4分の3にもなると言われている。だからやり方次第では、出来ないことはないでしょう。しかしそのためには、どれだけ国民の支持が得られるか、それが問題だ。せっかく国会で3分の2の要件を突破しても、国民投票で否決されては元も子もない。安倍さんとしては、まず憲法改正の必要性について、国民世論の同意を勝ち取ることが先決でしょうな。

静女史:私は、憲法改正なんて軽々しくしてほしくないし、また、そう簡単にはできないと思ってもいるけど、それでも、いつ何時できてしまわないとも限らない。そういう点でも、国民ひとりひとりに憲法の意義を十分に勉強して欲しいと思うわ。少なくとも今自民党が出している改憲草案は、絶対に許してはいけないと思う。

無覚先生:お二人ともどうもお疲れさまでした。また、壺齋さんも傍聴ご苦労さまでした。




  
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