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民主党政権とは何であったのか:小林良彰「政権交代」


この本は民主党政権が現在進行中の時期に書かれたにもかかわらず、過去形の表題を冠している。恰も民主党政権の時代は過ぎ去ったかの如き云い方である。ということは、著者が民主党政権を見限る余り、早く舞台から去れといった気持ちを込めて書いたということなのだろう。

そんなわけだから、この本は民主党の政権運営に対してきわめて辛辣である。まず、民主党政権の誕生からして、高く評価していない。2009年の総選挙の結果民主党が政権についたのは、民主党の政策なり国のかじ取りについて期待が寄せられたわけではなく、自民党に対する懲罰投票が民主党に反作用した結果に過ぎないといっている。また、政権発足後の政権運営についても、党内の権力闘争にうつつをぬかし、鳩山、菅、野田と代表が代るたびに政策軸が変質し、挙句の果てはマニフェストが事実上放棄されるようになる。これでは、何のための政権交代なのかと、国民の失望を買うのも無理はないというわけだ。

こうした評価があるからこそ、次のような言い方が自然と出てくるのだろう。「こうして、8月29日、参議院で野田首相に対する問責決議案が野党の賛成多数で可決し、三年間に及んだ民主党による政権交代の幕が閉じられようとしていた」

実際に民主党政権の幕が閉じられたのは、つい先日の12月16日であるから、上述の日からは3か月半先のことである。そして、民主党の退場を迫ったこの日の選挙でも、2009年の選挙と同じような傾向が見られた。民主党に対する懲罰投票が自民党の圧倒的勝利をもたらしたのである。その勝利が、自民党の政策なり国のかじ取りへの期待によるものと言うよりは、民主党への懲罰の裏返しであった点については、2009年の時と全く同じなのである。この三年半の間に、自民党は全く変わっていないのだから。

これはどう見ても、健全な姿とは言えない。選挙の度に振り子が大きく揺れて、極端から反対の極端へと動く。それは政治が情動によって動いている事の証しではないか。そういうあり方は、成熟した民主主義の姿とは程遠いのではないか。著者は最近の一連の政権交代劇から、そんな意見を導き出すのである。

たしかに、そうかもしれない。こういう事態をもたらした最大の原因は、いうまでもなく小選挙区制にある。この選挙制度は、イギリス流の二大政党制を根付かせるために導入されたものなのだが、どうも思惑通りに機能していないようだ。

民主党の政策ブレーンをつとめていた山口二郎氏も、ウェストミンスターモデルが日本に定着しないことに言及していたが、この本の著者はもっと進んで、日本にはウェストミンスターモデルはそもそも馴染まないのだというのである。ウェストミンスターモデルは、非常に対決色の強い統治システムであるが、それが曲がりなりにも機能しているのは、二大政党が国民の意思をほぼもれなく吸い上げ、何らかの形で実現に結びつけている現状があるからである。ところが、日本では、自民党も民主党も民意の吸収と言う点では非常に問題がある。

そのいい例がマニフェストの作り方だ。イギリスやアメリカの場合、マニフェストとは有権者の意見を反映してボトムアップで作られるものだ。だから、政権を取った党は、有権者に対してマニフェストの実現に責任を持たされるばかりか、常のその実現状況をチェックされる。それに対して日本の政党は、自分たちで勝手に作ったマニフェストを、いわば上から、有権者に示すにすぎない。一方、有権者の方も、マニフェストに示された政策をもとに、投票を判断している事実はない。であるから、議員がマニフェストに反した行動をとっても、そのことで評価することはほとんどない。そういうあり方は、代議制民主主義と言う点から見て非常に問題だ。そうした問題が生じる原因は、ウェストミンスターモデルと言う、そもそも日本人にはあわない政治制度を無理に持ち込んだことにある、と著者は言いたげなのである。

では、日本人に相応しい政治のあり方とは何か。それを著者は、この本の最後の部分で考察しているが、どうもかつての中選挙区制に近いものを、日本型民主主義にもっとも適したものと考えているようだ。かつての日本においてのように、国民の意思をそれぞれに反映する複数の政党が、互いに対立するなかから、強調出来るものを見出し、同意形成を図りながら、政策を実施していく。こうした調整型の統治スタイルの方が、対決型のスタイルよりも、日本人には適しているのではないか、というのである。(著者自身は、表向きは、比例代表制に言及しているが)




  
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