日本語と日本文化


河野洋平氏、最近の政治を批判する


前衆議院議長河野洋平氏が、雑誌「世界」のインタビューに答える中で、最近の政治について批判している。

とくに野田政権については厳しい。消費税の増税問題や原発再稼働問題ばかりが脚光を浴びているが、野田政権の本当の危険性は、外交や安全保障の分野で著しいという。野田政権がこの分野でしてきたことといえば、武器禁輸措置の緩和、原子力基本法の改変、宇宙開発を平和目的に制限してきたJAXA法の改変、集団的自衛権の見直しなど、平和国家としての日本の存立を危うくしかねないことばかりだ。こんなことを次から次へと平気でやる政権は、近年なかった、というのである。

こうした方向性は、野田政権がアメリカの軍事路線に追随していることの現れだと氏は分析している。中国の台頭などで、世界の勢力地図が大きく変化している中で、日本は米中間の仲立ちのような役割を果たし、世界の平和と安定に向け独自の役割を追求しなければならないのに、それができていない。ただただアメリカにくっついて、アメリカの意向に従っているだけだ、と手厳しい。

中国との間では、いま尖閣問題でもめているが、それは日本側がこの問題の歴史的な背景を十分に踏まえた対応を行っていないことにも、大きな原因があると氏は言う。

日中国交回復時に、日中双方ともこの問題を解決する知恵を持たないので、解決は将来の世代に任せようということになった。ということは、当分は現状維持でいこうということだ。尖閣は事実上日本が実効支配しているのであるから、現状維持ということは、中国側からは大きな譲歩だったということだ。このような合意があったにも関わらず、石原東京都知事のパフォーマンスがあったりして、日本政府は国有化の方針を打ち出した。それは、中国からして見れば、明らかに現状維持の方針からの逸脱だ、ということになる。

河野氏はこういって、野田政権に歴史の正しい理解に立った冷静な対応を求めている。

歴史の理解という点では、いわゆる従軍慰安婦問題を巡っての韓国とのゴタゴタも、野田政権の歴史認識に問題の一端がある、と氏は指摘している。相手の真剣な訴えを、「解決済み」だと門前払いしてしまっていいのか。そのようなやり方が、国際社会でどのくらい説得性を持つのか。むしろ批判を浴びるのではないか、と氏は言う。

「過去に植民地とした隣国からの訴えに対して、条約は条約として、人間として何かできることはないかと模索する姿勢が、まず重要なのです」と氏はいって、野田政権の対応を批判するのである。

1993年に河野氏自身が当時の政府の責任者として出した所謂「河野談話」には、そのような河野氏自身の歴史認識が反映されていたと考えられるわけだが、この談話に盛られた精神は、その後の歴代首相にも踏襲され、日本政府の公式見解となってきた。ところが最近、明確な文書資料がないことを理由に、河野談話を否定しようという動きが、一部の右翼政治家から出てきているが、そうした動きは、日本に対する東アジア各国の信頼を決定的に裏切るものだと氏は言う。

たしかに、人権には国境がないといわれるように、今や人権問題は国の枠組みを超えた普遍的な課題であるとの認識が強まっている。そうした趨勢の中で、日本政府が国家間の取り決めである条約を持ち出して、この問題は解決済みであると門前払いにするのは、人権感覚に欠けた野蛮な対応であると批判される恐れがあろう。

最近の日本は、中国、韓国との領土問題が火をつけた形で、偏狭なナショナリズムが横行するようになった。野田政権もそれを煽っているフシがある。しかし、感情的になるばかりでは、何も解決しない。そういって氏は、日本の政治家たちに見識のある行動を求めている。




  
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