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北方領土交渉に何を期待できるか


ヴラヂ・ヴォストークでのAPECの場を利用して、野田総理大臣とロシアのプーチン大統領が会談し、北方領土問題を議題にしたそうだ。その中で野田総理は、北方領土問題を解決して平和条約を締結したいとする日本政府の立場を説明し、「双方が受け入れ可能な解決策を見つけるべく、首脳、外相、事務次官レベルの議論を進めたい」と提案。プーチン大統領も、「世論を刺激せず、静かな雰囲気のもとで解決したい」と答え、日露間で協議を行うことに合意したという。 その上で、秋にも次官級、11月には外相間協議を行い、12月には野田総理が訪露して、首脳間での一定の合意を達したいとする日程まで決めたそうだ。

この情報に接して、気の早い向きは、長い間日本にとっての最大課題であった北方領土問題が、解決に向けて一気に動き出すかもしれないと、強い期待を抱いたものもいることだろう。そう進めば、言うことはないし、そうなれば野田総理は歴史に大きな足跡を印すことにもなろう。

前向きな期待をする人々にとっては、プーチンが中国との間で領土上の懸案を解決してきた実績に目を向ける。そのなかで、プーチンのロシアは大分中国に譲歩した。譲歩することで国境をめぐる中露の確執を解消し、未来に向かって健全な関係が築ければ、そちらのメリットの方が大きいと判断した結果だ。今回もプーチンは、日本側に譲歩することで、日露間の懸案を解決し、平和条約を締結したいとの強い意志を持っているのではないか、そう期待することにも一理はある。

しかしプーチンは過去に、歯舞・色丹二島の返還に言及した1956年の日ソ共同宣言の内容を一歩も踏み出ようとはしなかった。今回はそれを超えて、国後、択捉の返還問題も議題に取り上げるのか。そこがポイントになる。仮に日露間の協議が始まっても、国後・択捉が議題に上らないようでは、日本としては殆ど意味のない協議になる恐れがある。

歯舞・色丹についても、ロシア側は第二次世界大戦の結果ロシアに帰属したもので、歴史的にも、法的にもロシアに正当に帰属するものだとの見解を取っている。それ故、日本側が、それらはロシアによって不法に占拠されているとの見解を表明すれば、烈しく反発するわけである。ロシアとしては、第二次世界大戦の結果いったんはロシアに帰属した土地を、未来に向かっての日露関係の発展のために、日本に返還するのだという理屈なわけだ。

ロシアがそういう理屈にこだわるのは、対ポーランド国境をはじめ、第二次世界大戦の結果成立した膨大な国境線を抱えているからだ。日本に対して譲歩することは、早い話がポーランドとの間の領土問題に火をつけかねない危険性さえある。したがってロシアにとっては、領土問題は、日本とは異なった理由からデリケートな問題なのだ。

そういう事情をお互いに抱えながらの交渉である。野田総理は、「双方が受け入れ可能な解決策」を見つけたいと言い、プーチンもまた別の席で、この問題に「引き分け」の解決を見つけたいと言及していたが、果してどこまで痛み分けをすることができるか。そこが問題だろう。(最低限の前提として、四島に対する主権の回復は譲れない、このことを日本側は強く意思表示するべきだ)




  
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