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国民投票のできない国民投票法


憲法改正の手続きを定めた国民投票法が5月18日に施行されるそうだが、その問題点をめぐる朝日新聞の社説(5月16日付け)を読んで驚かされた。施行に必要な準備が何もなされておらず、このままでは新しい法律が「違法状態」のままで施行されるというのだ。

社説はその問題点のいくつかを挙げている。まず、憲法改正原案を審議するための憲法審査会について、参院では規定ができていない、衆院では規程はあるが委員そのものが選ばれていない。これでは憲法改正原案が出てきても審議するための場所が無い。

次に、国民投票法は18歳以上の国民に投票権を付与したが、これは有権者あるいは成人の規定が変化することを意味し、それにともなって20歳以上に選挙権を与えている公職選挙法や20歳を成年とする民法の規定も改正しなければならない。これらは準備期間のうちに改正手続きを済ますように要請されていたが、いまだにそのめどさえたっていない。

また、投票率が低すぎる場合に無効とする最低投票率を導入するかどうかも焦点のひとつだったが、これも放置されたままだ。

これでは法律が施行されても、実際に憲法改正の手続きには入れないし、それ以上に法律相互の間に重大な齟齬が生じることになる。今のままでは「国民投票のできない国民投票法」というわけのわからぬものが世に出ることになると、社説は大きな警鐘を鳴らしている。

なぜこんなことになったのか、誰しも不思議に思うところだろう。それ以上に、こんな不思議なものを施行して恥じない政府の無責任ぶりに腹を立てる人もいることだろう。

もともとこの法律は議員立法の形で成立したものだ。その背景には憲法改正に執念を燃やす勢力があったことのほかに、憲法改正の手続きを定めないでは責任ある政治とはいえぬという、常識的な考え方もあった。改正の中身は別にして、その手続きは定めておくべきだという共通の姿勢が、この法案の成立を推進したわけである。

ところが不幸なことに、手続きを定めるはずの法律が、憲法改正に向けてのハズミとして利用された。法案審議時点での首相は自民党の安倍晋三氏であったが、氏は筋金入りの改憲論者として知られる。その氏が2007年の参院選を前に、改憲を争点にしようとして審議を急いだために、野党側が猛反発し、一挙に議論が冷え込んだという経緯がある。

今年の参院選でも、自民党は憲法改正を争点にしようとしているようだが、仮に憲法改正原案をだすことになっても、今の状態では審議にも入れまい。

ここはもう一度原点に立って、憲法改正手続きを中立的な視点から審議しなおすことも考えてよいのではないか。




  
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