日本語と日本文化


誕生祭:草野心平の詩集「定本蛙」


草野心平は「蛙の詩人」と呼ばれることを必ずしも喜んではいなかったようだが、蛙を歌った詩集を生涯に4冊も出しているところからしても、蛙にこだわり続けていたことは間違いない。

その四冊の蛙の詩集とは、昭和3年の処女詩集「第百階級」、昭和13年の「蛙」、昭和23年の「定本蛙」そして昭和39年の「第四の蛙」、ほぼ10年おきに、蛙を歌った詩集を出し続けていることがわかる。

「定本蛙」は、蛙をテーマにした作品を集大成したもの。「第百階級」以後の既発表の作品のほか、新しい作品を加えて、昭和23年時点での、草野の蛙に対するこだわりを、もれなく陳述しているといった体裁だ。

この詩集の中で、筆者がもっともすきなのは「誕生祭」という詩。題名どおり、蛙にとって掛買いのない、おたまじゃくしの誕生を歓喜する歌だ。

キーワードは例の「ぎろやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ」という叫び声だ。

第百階級の蛙たちは、この叫び声を通じて、虐げられているものの怨念を歌っていたが、この蛙たちは生命の誕生がもたらす希望を歌っている。


誕生祭

  砂川原のまんなかの沼が夕焼け雲を映してゐたが。
  もうむらさきの靄もたちこめ。
  金盥の月がのぼつた。

  蒲やおもだかが沼をふちどり。
  その茎や葉や穂のびろうどには重なりあふほどの蛍たちが。
  蛍イルミネーションがせはしくせはしく明滅する。
  げんごろうの背中には水すましが。鯰のひげには光る藻が。

  この時。
  とくさの笛が鳴り渡つた。
  するといきなり。沼のおもては蛙の顔で充満し。
  幾重もの円輪をつくつてなんか厳かにしんとしてゐる。
  螢がさつとあかりを消し。
  あたりいちめん闇が沸き。
  とくさの笛がふたたび高く鳴り渡ると。
  《悠悠延延たり一万年のはての祝祭》の合唱が蒲もゆれゆれ轟きわたる。

      たちあがったのはごびろだらうか。
      それともぐりまだらうかケルケだらうか。
      合唱のすんだ明滅のなかに。
      ひときは高くかやつり草にもたれかかり。
      ばあらばあらと太い呪文を唱へてから。

       全われわれの誕生の。
       全われわれのよろこびの。
       今宵は今年のたつたひと宵。
       全われわれの胸は音たて。
       全われわれの瞳はひかり。
       全われわれの未来を祝し......。
       全われわれは......。

  飲めや歌へだ。ともうじやぼじやぼじやぼじやぼのひかりの渦。
  泥鰌はきらつとはねあがり。
  無数無数の螢はながれもつれあふ。

  りーりー りりる りりる りつふつふつふ
  りーりー りりる りりる りつふつふつふ
       りりんふ ふけんふ
       ふけんく けけつけ
  けくつく けくつく けんさりりをる
  けくつく けくつく けんさりりをる
        びいだらら びいだらら
        びんびん びがんく
        びいだらら びいだらら
        びんびん びがんく
  びがんく びがんく がつがつがりりがりりき
  びがんく びがんく がつがつがりりがりりき
        がりりき きくつく がつがつがりりき
        がりりき きくつく くつくく ぐぐぐ
                  ぐぐぐぐ ぐぐんく
  ぐぐぐぐ ぐぐんく
  ぐるるつ ぐるるつ いいいいいいいいいいいいいいいいい
  ぐるるつ ぐるるつ いいいいいいいいいいいいいいいいい
        があんびやん があんびやん
          われらのゆめは
          よあけのあのいろ
          われらのうたは

     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ
     ぎやわろつぎやわろつぎやわろろろろりつ


    

  
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