日本語と日本文化


号外:草野心平詩集「第百階級」


「第百階級」は草野心平の実質的な処女詩集である。活版印刷した上で同人雑誌銅羅社から出版したという体裁をとっているが、これを印刷したのは静岡県の杉山市五郎という農民詩人で、手動式の名詞印刷機で印刷したものだった。だから誤植が目立つ粗末な本だったらしい。

収録された45編の詩は、すべてカエルをテーマにしたものだ。草野はこれ以後もカエルの詩集を繰り返し(三回)出しているので、世上ではカエルの詩人とあだ名されることもある。

だが、草野はカエルの心をカエルの立場に立って書いたかというと、そう単純ではない。草野がいうカエルは、虐げられたものの象徴でもある。人間で言えばプロレタリアだ。

草野が詩人として活動を始めた昭和の初期は、労働者の階級意識が高まっていた時代だ。その動きの中からプロレタリア文学も生み出されつつあった。草野自身はアナーキスト的な心性をもっていたので、階級意識に基づいた労働運動などにはコミットしなかったが、労働者を虐げられた人々と見て、彼らに同情する心の優しさはもっていた。

詩集の題名第百階級とは、数にも入らないつまらぬ集団としてのカエルをイメージしたものだが、それはまた、数にも入らぬつまらぬ人間の集団としてのプロレタリアをも意味していた。プロレタリアの異名ルンペンとは、ドイツ語で屑という意味だ。

「号外」と題する詩は、虐げられた階級としてのカエルが、自分たちの抑圧者の死を喜んでいるものだ。


号外:草野心平

  界隈でいちばん獰猛な縞蛇が殺された
  田から田へ号外がつたはって
  みんなの背中はよろこびに盛り上がった

  ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
  ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
  ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ

  ぬか雨の苗代に
  蛾がふるへてゐる

  ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
  ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
  ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ

「ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ」という異様なオノマトペが、カエルの喜びの強烈さをよく伝えている。


    

  
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