日本語と日本文化


孤立語・膠着語・屈折語:言語形態学から見た日本語


フンボルトに始まる西洋の言語形態学では、世界の言語を、孤立語、膠着語、屈折語に分類している。これによれば日本語は、膠着語の部類に入る。

孤立語とは中国語に代表されるもので、それぞれが独立して完結した意味を持った単語を、単純に重ねることで文を構成ずるものである。中国語は一つ一つの漢字が独立した音と意味を持っている。それを積み重ねることで、どんな複雑な文章をも表現できるから、言語形態学は、これを孤立した単語からなる言語、つまり孤立語だと考えたわけだ。

膠着語とは、ウラル・アルタイ語系を中心にしたもので、独立した単語を、助詞や助動詞によってつなぎ合わせることで、文章を表現するものである。助詞や助動詞が膠のような役割を果たすことに着目して、膠着語と名づけられた。

屈折語とはヨーロッパの言語をさしていう。これは単語そのものが、人称、時制、格などにしたがって複雑に変化する。言語形態学はこの変化を屈折と表現して、ヨーロッパ系の言語を屈折語と名づけた。

いま、中国語、日本語、ドイツ語を例にとって、三者の関係をわかりやすく説明しよう。

 我愛汝
 私は君を愛します
 Ich liebe dich

この三つの表現はいづれも同じ意味を持っている。中国語は「わたし」にあたる「我」、「愛する」にあたる「愛」、「君」にあたる「汝」の三つの単語を並べることで、意味を表している。

日本語の場合には、「わたし」、「愛する」、「君」という三つの要素を、「は」、「を」、「ます」という助詞および助動詞でつなぎ合わせている。

ドイツ語の場合には、「liebe」という動詞、「dich」という人称詞が、人称と格変化の原則に基づいて、一定の変化をしている。「liebe」の不定形、中国語の「愛」にあたる言葉は「lieben」であるのに、「ich」が主語にあるために人称変化を起こして「liebe」となり、また「dich」の不定形(主格)は「du」であるのが、この場合には目的格(対格)に位置しているのでこのような変化を起こしている。このようにヨーロッパの諸言語は、単語そのものが内部に変化の要素を含んでいる。

ヨーロッパで展開した言語形態学は、この三つのうち、孤立語をもっとも原始的な形態と考え、そこから膠着語が生まれ、最後に屈折語が生まれたと考えている。しかし今日では、これはヨーロッパ人種優先の見方に立つ、差別的な偏見だとする意見が優勢である。

歴史的にみれば、こうした偏見を裏付けるものは何もないといってよい。この偏見によれば、ヨーロッパ言語を話す人間は、人類の進化の過程の最後に出現したということになるが、進化の歴史はかえって逆のことを教えている。アフリカの草原に生まれた人類の祖先は、ヨーロッパに渡って白人を分岐させ、それがアジア大陸に進出する過程でアジア人が生まれた、こう推測するのが今日の人類学の主流意見である。

それはともかく、日本語についていえば、単純な膠着語と分類されるには、ちょっと無理がある。日本語は動詞や形容動詞、そして助動詞も活用という形の変化をする。これはある意味でヨーロッパ言語の格変化と同じような作用をするものだ。

またヨーロッパ言語の中でも、ロシア語などはいまだにうるさいほど微細な格変化をするのに対して、英語ではそれがルーズになっている。動詞が人称変化を見せるのは三人称単数の場合だけであるし、未来系や過去形は人称にかかわらずすべて同じ表現だ。

これに限らず、英語の場合には、単語を並べるだけで意味を表現しようとする傾向が強まっている。この現象を捉えて、言語形態学では英語の孤立語化現象などという人もある。


    

  
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