日本語と日本文化
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日本語の子音


日本語における子音は、50音表に分類されている通り、9種の清音、4種の濁音、1種の半濁音、合わせて14種である。子音の分類には様々な方法があるが、これを調音の部位によって分類すると、「か」行、「が」行、「は」行は口蓋音、「さ」行、「ざ」行、「た」行、「だ」行、「な」行は歯茎音、「ま」行、「ぱ」行、「ば」行、「わ」行は唇音、「ら」行は舌音に分類できる。「や」行の音は、軽く舌を使うとはいえ、母音の発声に近く、一律に分類することがむつかしい。

子音は、母音とともに音韻を形成する基本単位であるから、ある民族がどのような子音の体系を有しているかは、大変興味をひく題材である。日本語の子音を単純に欧米各言語と比較しても、その体系には大きな相違がある。とくに、日本語の「ら」行の音に対応するものとして英語には l と r があり、日本人がその発音に苦労するなどは、彼我の子音の相違がいかに民族性を反映しているかの一例である。一方、お隣の中国の子音には、そり舌音など日本語にはない音があり、清音、濁音の区別のかわりに、無気音、有気音の区別がある。

以上は、発声上の問題にかかわることであるが、子音の用いられ方についても、民族による相違がある。

まず、日本語においては、子音が単独に用いられることはない。日本語のすべての言葉は、50音表に分類された音韻の組み合わせによってできているが、個々の音韻は、母音単独かあるいは子音と母音の結合したもので、必ず母音を含んでいる。英語では、tree やblow のように語頭に子音が表れる言葉や、bat や cat のように語尾に子音が現れるものなど、子音が単独で用いられるのが常態であるが、日本語においては、子音は決して単独には用いられない。(この点は、中国語にも似た事情があるらしい)

しかし、日本語の歴史の一時期、子音が単独に用いられたこともあった。漢語の受容の過程において起こったことである、古代の漢語には入声音というものがあって、「鉄」を tet、「劇」を gek のように発音していた。これらは。当時の日本人には耳慣れぬ音であったが、もとの音そのままに発音していたらしいのである。しかし、これらの言葉もやがて日本語の音韻法則にしたがって、「てつ」、「げき」と日本語らしい発音に改められるようになった。

日本語の音韻を西洋風言語学の言葉で、音節と言い換えることもできる。音節がとくに問題となるのは詩歌や音楽の場合である。詩歌や音楽にはリズムという要素があるが、リズムを構成する一つ一つの単位に一つの音節が割り当てられるのが原則である。(わかりやすくいえば、楽譜のおたまじゃくしの一つ一つに対して、それぞれ一つの音節が割り当てられる)西洋語の音節に比べ、日本語の音節は母音ひとつか、あるいは一つの子音と一つの母音が結合したものに過ぎないので、きわめて単純であるといえる。ここからして、日本古来の詩歌管弦は、朗々として伸びやかなものになったのだろうと思われるのである。


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