日本語と日本文化


真間の手古奈はチョウチョだった


万葉集に収められた「葛飾の真間の手古奈」の悲しい物語。この物語のヒロインの名前を「手古奈」というのだが、この「テコナ」とは、チョウチョを表す言葉だった、と言語学者の堀井令以知氏がいっている。

青森県では、蝶のことを「てがら」とか「てんがら」というが、これのもともとのかたちは「たかひひる」つまり「空高く飛ぶヒヒル」であった可能性が強い。「ヒヒル」とは、蝶になる前の毛虫の状態を指す言葉である。このタカヒヒルがなまって、タカヒル、テビラコ、テケナ、テコナという具合に変化したのだろう、そう氏は推測するわけだ。

古来の日本女性の髪形の一つに丸髷があるが、これの異称をチョウチョと言ったらしい。形からの類推が働いた結果だろう。この髷の根元に、やはり羽を広げたチョウチョのような飾りを付けたが、それもまた「テガラ」と呼んだ。

時代が下って「堤中納言物語」の時代になると、チョウチョのことは「蝶」、毛虫のことは「烏毛虫」などと呼ぶようになったことが、「虫愛ずる姫君」のテクストから読み取れる。

「蝶」は漢語を借用してできた言葉らしい。「蝶」は入声音だったため、はじめは「テフ」と発音されたが、それが音韻変化して「チョウ」になったと思われる。「チョウチョ」とは「チョウ」を二つ重ねることで、可愛らしさを強調する試みだが、時代がずっと下がってからの用法だろう。

なお、釣りに用いる毛バリのことを今でも「テガラ」という地方がある。これも形からの連想だろう。また、目覚ましい功績をあげることを「手柄をあげる」というが、この「手柄」も釣り針の「てがら」と関連があるらしい。




  
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