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日本建築の構造的特徴:柱の文化


建築物を分類する方法としては、材料に着目したもの(木造、石造など)、機能に着目したもの(住居、公共建築など)、形状に着目したもの(平屋、塔など)等いろいろありうるが、構造上の特徴という面に着目して、壁の文化と柱の文化との対立軸も面白い着眼点になると思う。

壁の文化は、ヨーロッパから中近東、アフリカ、中央アジアを経て中国の一部にわたるまで広く分布している。それは石にせよレンガにせよ、建物の構造を壁が支える文化だ。それに対して日本の木造建築は、柱が建物の骨格を支えている。

壁と柱とは建物の枠組みにとって基本となるものである。理想的にはその両方を強化することが望ましいのだろうが、現実の歴史においては、世界中の建築物はこのどちらかに比重をおいてきた。日本の伝統的木造建築は、柱の文化の最も洗練された形態だということができる。

ここで日本の伝統的木造建築物の基本構造を押さえておこう。それは専門用語で言うと、軸組と小屋組からなっている。

軸組とは建物の胴体をなす部分で、建物全体から屋根を除いたものだと考えればよい。軸組を構成するのは柱と梁と桁である。この三つの要素の組み合わせによって、建物本体のシルエットが出来上がる。

基本となるのは柱の建て方である。いまでも間口の広さをあらわす単位として一間二間という言い方がされるが、それは柱と柱の間の長さを現す。

柱の上部に水平に渡されるものが梁と桁である。梁は建物の長いほうの、桁は短いほうの名称である。建物の規模を表す言葉として桁ゆき何間、梁ゆき何間というのがあるが、それぞれの下に何本の柱が立っているかを示したものである。

桁のほうは通常一本の木によって渡される。それに対して梁のほうは、何本かをつないで長くすることができる。こんなことから日本の建築物の規模は桁に用いられる木材の長さに制約される。

小屋組は、軸組の上において三角形の屋根を形作る部分である。屋根の頂上となる部分が棟と呼ばれる。棟は通常一軒の家に一つしかないから、一棟、二棟という具合に家を数える単位ともなった。

棟と梁や桁をつなぎ、屋根の表面をささえるあばら骨のようなものを垂木という。垂木を組んだだけでも屋根の骨格はできるため、そのまま軸組の上に乗せることができる。

しかしより強固にするため、梁や桁の上に小さな柱(束という)を継ぎ足し、それで棟を支える方法がとられる。これは和小屋組といわれる。それに対して束を用いず、軸組の上に屋根の骨組みを直接乗せるものを合掌作りという。

このように日本の伝統的な木造建築は、柱で骨格を形成し、そのうえに屋根を乗せたような構造をしている。

外壁は壁の建築文化にとっては、建物の構造そのものになっているが、日本の木造建築においては、構造上は軽視される傾向がある。中には壁の部分が極端に省略され、外界に向かって非常に開放的な作りの家もある。

阪神淡路大震災の折に、日本の伝統的な木造建築の多くが、無残に倒壊した。軸組が屋根の重さに耐え切れなかったのが原因である。

そうした家は、ひ弱な枠組みの胴体の上に巨大な屋根が乗るような形になっていた。日本の伝統的木造建築にひそむ耐震性能上の問題点をあぶりだした事例だ.


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